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カテゴリ:びしびし本格推理
「体育館の殺人」で衝撃的なデビューをした青崎有吾の一風変わったミステリーを読んだ。
○ストーリー 人間と協調することを宣言し,特殊加工をした獣の血だけで生きている吸血鬼の家族の一員が殺された。行き詰まった捜査を解消するために,その場に現れたのは東洋の国・日本から渡り歩いて来た怪しげな人々だった。彼らはまだ暗黒が残る19世紀を,恐ろしい切れ味の調査の牙で切り開いて行く。果たしてその真相は? ------------ 青崎有吾は高校を舞台にした「体育館の殺人」で,〈新本格ミステリー〉〈ポスト本格ミステリー〉〈ライトノベル〉を融合した新しい世界観を提示してみせたことで,衝撃を与えた。 〈ライトノベル〉風のキャラクター設定や会話文を用いつつ,ミステリーの部分ではエラリー・クイーン風のガチガチの〈本格ミステリー〉のセオリーに従う,という有りそうで無かった--あるいは誰も成功しなかった--新しいバランス感覚の作品は大きな驚きと賞賛を獲得し,そのままシリーズ化がなされた。 さてこの作品はその青崎有吾のパイオニア精神を活かし,〈ゴシックホラー〉と〈本格ミステリー)の融合が達成されている。まあ〈ライトノベル〉の要素もあるけれど。 ------------ この作品は,様々な文化が花開いた19世紀のヨーロッパを舞台にしている。さらにそこでは〈ホラー小説〉で語られている怪物が実在し,それらとの共存もなんとか模索され安定しつつある。 それにより〈第1章〉で登場するのは吸血鬼の一家であり,〈第2章〉で登場するのはフランケンシュタインの人造人間だ。 主人公たちは怪物専門の探偵であり,怪物関連の事件に呼ばれ,あるいは売り込みをかけ,怪物ゆえの特殊能力,一方で制限を考慮に入れて,理詰めで事件の解決を図る。 その手腕は間違いなく〈本格ミステリー〉の伝統だ。最初は何で?と思わせておいて,きちんとミステリーファンの要望やチェックに応えられる作品に仕上がっている。 あたらしいミステリー作品を楽しもう。 ------------ 各編について簡単に感想を述べる。 「序章 鬼殺し」:明治時代の見世物小屋で,怪物を倒す異能の青年がいた。今日も淡々と仕事をこなす彼の前に,不思議な少女が現れた。・・・印象的ではあるものの,描写が少なくて状況が見えない。 「第1章 吸血鬼」:人間と協調して生き延びるはずの吸血鬼が刺殺体で発見された。フランスの古城を訪ねてきたのは,鳥籠を手にした青い髪の男だった。・・・本来は不可能なのに,理詰めで行くと可能性が見えてくるという不思議,あるいは醍醐味がある。実に面白い(ガリレオ風)。 「第2章 人造人間」:ベルギーの実験室で新しい人造人間が生まれた。だがその隣に,開発を指導して来た教授の死体が発見された。果たしてこの事件の犯人は人造人間なのか?それとも人間なのか?・・・不可能犯罪を可能のするのは怪物がそこにいるからだ。実に新しい(プロミス風)。 その後にエピローグ風に主人公たちの宿敵が姿を表す。実に楽しみだ(素直)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.09.14 22:07:10
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