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カテゴリ:好きな本・読んだ本
若竹七海の作品の中で紹介されていたSF幻想小説を読んだ。
○ストーリー 自転車に乗っていた父子は,彼らの前を横切る恐竜の姿に驚く。やがて彼らの住む新興住宅地に,多くのトリケラトプスが現れ,現実と重なり合って住み始めた。2つの世界のゆるやかな共生を父子は喜んでいた。だがそうした日々は,ティラノサウルスの群れの出現により終わりを告げた。 ------------ 河野典生は,1960年代から20年ほど「宝石」「SFマガジン」などで作品を発表し,直木賞候補にまでなった作家らしいが,これまで読んだことがない。 ハードボイルド小説と幻想小説を書いていた,という経歴のようだ。僕もどちらのジャンルにも手を出しているが,自分でも一貫性がないと思っているので,両方を得意としていた作家がいたことに驚いた。 ------------ この連作短編集は,都会的なテイストのSF幻想小説で,レイ・ブラッドベリの作風を思い出させて懐かしかった。この作品が刊行されたのは1974年で,ちょうど〈東京ゴミ戦争〉〈光化学スモッグ〉の頃で,輝かしい未来は既に失われつつあったはずだ。 それでも格調高い文章とレトロな雰囲気で全体を上品にまとめ上げたのは素晴らしいと思う。稲垣足穂の後継者がこんなところにいたとは?! なぜ大学生の時に知ることが無かったのだろう。残念でならない。 ------------ 各編について簡単に感想を述べる。 「序曲 ある日、ぼくは聞いた」:・・・散文の序曲で,若々しさにあふれている。恥ずかしくなるほど前向きだ。 「1 メタセコイア」:東京の歩行者天国の中心で,ある家族は毎週ピクニックを行う。微笑ましいとも愚かとも思われていた彼らは,誰の目にも見えない古代からの樹木を目にしていた。・・・ある人々にだけ見えるもう1つの世界というのはまさにブラッドベリ的な世界観でぐっと引き込まれた。 「2 ベゾアール・ゴート」:郊外の分譲地でヤギの無殺菌乳を訪問販売する男が現れた。男が健康的にたくましくなるに連れて,ヤギ乳の人気も上がる。だが不思議な事件も発生し?・・・ディテールが細かい部分とロシア幻想小説のような展開とのバランスが面白い。 「3 マッシュルーム」:幼い1人娘がふさぎ込み,キノコの絵を描き始めた。夫婦は娘がそれを食べているのではないかと心配するが,事件は別の場所で起きていた・・・これはかなり怖い。 「4 直立猿人」:〈僕〉は恋人の桃子から距離を置かれてしまった。そんな〈僕〉は自分に短い尻尾が生えていることに気付く。そして・・・これまたロシアの短編小説のような味わいなのだが,最後は別の方向へと進む。 「5 ネオンムラサキ」:仕事場まで長時間をかけて通勤をしている男は,自分の上に青く美しい蝶が飛んでいることに気付く。やがて蝶は,多くの通勤者の上にも現れ・・・美しい短編だ。 「間奏曲 プレリードッグ」:住居を空へと伸ばせ続けようとする人間がいる世界の裏で,巣を地中に深く掘り続けようとするプレリードッグがいた。・・・よくわからなかった。 「6 空についての7つの断章」:・・・散文でまとめた短編。立原道造かと思った。 「7 ザルツブルグの小枝」:雑木林の中の別荘で暮らしているおれたちは,別の空間が重なり,家のすぐそばに海や〈ザルツブルグの小枝〉が現れるのを見る。・・・超常現象が起きてやがて去っていく,という平和的なパターンの短編だ。ただ主人公がヒッピー家族。 「8 ニッポンカサドリ」:郊外の分譲住宅地の真ん中に残った古い家で,春日部は書道塾を開いていた。だが彼の古式の指導法は受け入れられず・・・うーん,いつの時代の物語なんだろう?シュールだ。 「9 トリケラトプス」:新興住宅地に住む父子の前にトリケラトプスは現れ,やがてそれは群れとして現実世界に重なって存在する。平和な日々はティラノサウルスの群れの襲撃によって終わりを告げた。・・・繰り返し用いられているモチーフだが,超常現象を父と息子が一緒に体験しているという部分が新しく,優しい世界になっている。 「10 クリスタル・ルージュ」:人が死ぬときに身体から空へと伸びて行く赤い結晶。それを信じてくれた男に少年はついていく。そして最後に・・・圧倒的なビジュアルに驚いた。アジア的な世界観だなあ。 「終曲 さあ、どこへ行こうか」:・・・最後も散文だ。ここでも前向き(笑)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.11.10 21:52:11
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