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カテゴリ:びしびし本格推理
三軒茶屋のバーを舞台にした北森鴻の〈香菜里屋シリーズ〉の第2作を読んだ。
○ストーリー 埼玉県新座署の神崎守衛は,調査対象の女性が毎年春先に,緑色の桜〈御衣黄〉の下で数日を過ごすことを知る。彼女にはなぜこの習慣があるのか?そしてこの女性と一度だけ関係を持ってしまったことを,どうして病死した妻が知っていたのか?全ての謎は,あるバーを訪ねたことで明らかになった? ------------ 地味だけれど,提供される料理がとにかく美味しそうなビアバーを舞台にしたミステリーだ。でもさすがに,ちょっとビアバーとしては料理が主張し過ぎていると思う。1人で調理しているとしたら,バーテンダーをしている時間もないと思うしなあ。 そこでは日常のミステリー好きな常連と,運命に導かれて訪れた人々が,ぽつりぽつりと体験や聞いた話を語り合う。マスターの工藤がそっと示唆する真相は,時に優しく,時に残酷に,人間の心の奥を解き明かしてくれる。 お酒と料理と人間心理,正に大人向けのミステリーだ。 ------------ 毎回舞台は三軒茶屋の裏手にある〈香菜里屋〉だが,語り手が伝える物語は,そこから遠く離れた土地までも届く。前作第1巻でも山口県が舞台の短編があったが,今回は岩手県花巻市が登場し,なんと最後にはマスター・工藤がそこまで出向くという珍しいパターンも見える。 常連客は第1巻からの人々が顔を見せるが,基本的に脇役として時たま会話に入ってくるだけだ。別のシリーズからのゲスト出演も無かったので,この作品だけを読んでも問題ないと思う。 ------------ 〈香菜里屋〉がある設定の三軒茶屋の隣にある池尻大橋に〈バー香月〉があり,そのマスター香月圭吾は,工藤の旧友らしい。謎の人物の過去が,これから徐々に明かされるのだろうか? ------------ 各編について簡単に感想を述べる。 「十五周年」:タクシー運転手の日浦は,故郷・花巻の幼馴染を客として乗せる。それがきっかけで彼女の母親が営む小料理屋の15周年パーティーに出席するために5年ぶりに帰郷する。そしてそこで別の料理店で起きたボヤの真相が,洋画の盗難事件ではないかという噂を聞きつける。それを東京に戻って語ると?・・・ここまでするか?という大がかりな計画に驚く。短編では表現されていないが,よほどの理由があったのだろう(たぶん)。 「桜宵」:1年前に病死した妻が残した手紙を頼りに,埼玉県新座署の神崎守衛は,三軒茶屋のバーにたどり着く。そこで出された緑色の〈桜飯〉を見て,彼は妻が全てを知っていたことに気付く。かつて彼は,〈御衣黄〉という緑色の桜の咲く場所で,調査対象の女性と逢引をしていたのだった。そして・・・語りの妻の驚異的な調査能力に脱帽だ。いくら刑事の妻とは言え,非現実的だろう。過去のエピソードがどんどんと広がって少し飽きた。 「犬のお告げ」:同棲している修と美野里だったが,修の会社では強引な人員削減が進みつつあった。さらにそのリストラの対象者は,人事部長宅で開催されるパーティーで,飼い犬に咬まれた者が選ばれる,という噂があった。そしてついに修がパーティーへと招待されてしまった。果たして・・・珍しくややコミカルな流れで新鮮だった。カラクリは予想以上に分かりやすかったが,その先にまだ謎があった。納得行かなかったけれど。 「旅人の真実」:「金色のカクテル」を注文した男は,工藤の友人のバーを紹介され,捨てゼリフを残して去っていく。そこに居合わせた飯島七緒は,この男が銀座のバーでも同じことをしていたことを思いだす。そして工藤の友人・香月の店〈プロフェッショナル・バー香月〉でも同じようにとげとげしいセリフを述べていたことを聞き,工藤に相談をする。どうやら男の恋人がバーテンダーで,カクテルの大会に出場する彼女のために「究極の金色カクテル」を探し歩いていたらしいのだ。だがその真相は?・・・美談と思わせて実は・・,というパターンだが,物語の流れが周到なのでついミスリードされてしまう。 「約束」:店の給排水設備の大がかりな修理が発生し,工藤は10日間の休みを取り,花巻で小料理屋の主人となっている日浦のもとを訪ねる。大繁盛をしている店を,いつの間にか工藤が手伝い始め,すっかりと突然の名料理人となっていた。そこにベストセラー作家・土方洋一と香坂有希恵が来店する。彼らは10年前にここでの再会を約束していたのだった。かつての恋人たちの会話に突然工藤が入ってきた。それは?・・・前の短編と同様に”実は・・”のパターンだ。だがさすがに前の短編よりは分かりやすかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2016.12.17 18:11:58
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