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カテゴリ:びしびし本格推理
〈日本のエラリー・クイーン〉有栖川有栖の長編を読んだ。
〇ストーリー 作家・有栖川有栖は,京都亀岡の別荘地にある大人気ホラー作家・白布施の家に泊まりに行く。だが翌日,その近くで女性の死体が発見される。有栖川は,親友の犯罪学者・火村を呼ぶが,女性はストーカー被害に遭っていたことと,容疑者が亀岡に来ていたことが分かり,事件は早々に解決する様相を見せる。だが,それから意外な発見があり,事件の謎は逆に深まっていく。そして火村は? ----------- 言うまでもなく,現在では貴重となった本格ミステリーの作品だ。しかもその正統な伝統をきちんと受け継ぐ,ロジカルな作品だ。 登場するのは大人気シリーズの,犯罪学者・火村英夫と作家・有栖川有栖のコンビだ。それぞれの仕事で認められた30代の2人は,各地の警察から難事件への協力を依頼される探偵(と助手)でもある。 このいつもの(年を取らない)2人が,少しずつ異なるアプローチで確実に犯人へと迫る。物語の緩急を含めて,さすがは有栖川有栖の作品だと思った。 ----------- 一方で,不満が無いワケではない。 ある事が起きて犯行エリアは一時的に通行不能となる。ストーカーがちょうどこのタイミングにここに現れる。・・・さすがに偶然では片付けられないレベルなので,どうしても作為を感じてしまう。 また前作「鍵の掛かった男」と同じモチーフが扱われるのだが,前作ではそれが全体を覆った悲しみと結実していたのに比べ,今回は読者には幾重にも明かされない部分となり,いろいろとスッキリしない。 本格ミステリーでありながら,事件の8割以上を解きつつ,残りは想像ください,というのは有栖川有栖としては初めてのパターンではないだろうか?事件の犯人と手段はきちんと解かれているのだが,その背景となった動機についてはとうとう曖昧なままだ。 人間の行動の多くは論理的ではなく,その場の社会的な倫理に基づいているだけだ。けれどもミステリーは純文学ではないのだから,通常明かされない心の内面を,ロジックの補足として語ってくれても良いと思う。 ----------- 一番盛り上がったのが,火村が「あんたが犯人だと思ってたよ」と宣言するシーンだ。 正直ロジックミステリーとしては,必要以上に取っ散らかっていると思う。なので,半分以上犯人捜しを諦めていたが,終盤でのこのセリフは,さすがに一気に緊張を与える効果があった。 とは言え,もっともっと整理出来た作品だと思う。もっと「鍵の掛かった男」系の過去バナシに行くか,現代のメロドラマにフォーカスするかして,もやっとした部分を減らしてまとめることは出来なかったのだろうか? ----------- とは言え,何度も述べているように,最終的なロジックはきちんとしている。鉄壁かと言われるとさすがに違うと思うが。 問題は,複数の謎がオープンのままだということだろう。ミステリーとしての決着への影響はなのだが,それでも人間として知りたいと思うのは,自然な心だと思う。 ----------- 装丁は最近の有栖川有栖のパターン通り,黒を背景に細めの題名というものだった。それに加え,蝶と針をつなぐ意匠が美しかった。「狩人」と「夢」をきちんとイメージ化してくれていると思った。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.05.09 22:06:26
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