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カテゴリ:びしびし本格推理
東野圭吾の初期長編を読んだ。
〇ストーリー 高校・大学と付き合った女性・沙也加から7年ぶりに連絡が来て,〈私〉は彼女の話を聞く。そして幼少の記憶がないという彼女の問題を解決するため,2人は彼女の父親が地図を残した長野の別荘へと向かう。だがその家に残っていたのは,ある家族の悲しい歴史だった。この家の意味は?そして沙也加の消えた記憶の真相は? ---------- とにかく最初に書いておきたいのが,語り手〈私〉の人の良さだ。元恋人・沙也加と〈私〉はひじょうに相性が良く,〈私〉ははっきりとは言わないけれど未練があるのは明らかだ。 それであっても,〈私〉を捨てて,結婚し,子供も設けた人物に,自分の過去を探るための調査を手伝え,と言われ,それを手伝うというのは,どう考えても〈私〉にとって良い話ではない。 必要以上に優等生ぶる東野圭吾の登場人物とは言え,今回ばかりは〈私〉が沙也加の様々なワガママに付き合う意義が感じられない。 ---------- ・・・というワケで,フツーのレビューにシフトする。 登場人物が2人,展開する舞台が別荘の数部屋だけ,というミニマル的な設定なのに,文庫版300ページをだれることなく読ませるテクニックは見事だ。 冒頭に書いたように,〈私〉の異様な従順さだけが気になるが,沙也加と〈私〉の2人が謎の家を訪れ,そして家に残っていた資料を元に過去の事件に迫って行く流れは,読むほどにぐいぐいと引き込まれる。 家の謎とは何なのか?それと元恋人・沙也加の記憶の欠落の関係は?大傑作というワケではないが,ドライブ感という点ではなかなか類を見ない作品だと思った。 ---------- とは言え,ストーリーテリングをスムーズにさせるために,いくつかの不自然な点が生まれている。 まずは先に述べた〈私〉の従順さ。これはちょっとした理由付けを付加すれば解決出来たはずなので,残念だ。 あとは読んでいる中での伏線だ。きちんと述べてあるのだけれど,毎回別の伏線のことが語られるので,いろいろな点が未消化のまま結末まで流れる。 確かに結末には驚きがあるのだけれど,途中の〈おや?〉を,別の〈はてな?〉で引っ掻き回されて,うやむやにされたので,あまりフェアな印象を受けなかった。 ---------- いろいろと状況を絞り,過去の資料と失われた記憶を探る。設定に負けない見事なストーリーテリングになっている。 結末のなんとも言えないアンハッピーな感じを除けば,なかなかの秀作だと思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.07.24 21:34:45
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