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2018.04.10
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カテゴリ:びしびし本格推理
講談社の新しい文庫レーベル〈タイガ〉の連作短編集を読んだ。

〇ストーリー

折谷ひかりは高校の修学旅行で,友人に誘われてタイムスリップが起きるという〈時の館〉に泊まることになる。そこで彼女の前に現れたのは,未来の彼女を知るという少年だった。さらに?

ーーーーーーーーーー

講談社の〈タイガ〉は文庫でありながら,ミステリーファンとしては注目のレーベルだ。

個人的には森博嗣の〈Wシリーズ〉と青崎有吾の〈マーダーファルス・シリーズ〉を追いかけているが,他にも興味をそそられる作品が並んでいる。

講談社ノベルス,〈Boxレーベル〉を含めて,講談社はずっと〈新本格ミステリー〉に積極的に関わっている。大手の出版社なのに,この姿勢にはいつも驚かされる。

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この作品は〈新本格(ミステリー)30周年記念アンソロジー〉と書かれているシリーズの一環らしく,この作品「謎の館へようこそ 黒」以外にも,「謎の館へようこそ 白」と「7人の名探偵」があるらしい。

個人的にはうれしいのだけれど,新本格ミステリーのブームもとっくに去った現代の状況で,この講談社の頑張りはいったい何なんだろう?

ーーーーーーーーーー

この作品は6人の作家のオムニバス短編集なのだけれど,4人までが自分の既存のシリーズに含まれる短編を執筆している。

このシリーズは全て書き下ろしらしいのだが,それ以外にも作家に対して積極的に”講談社で発表されているシリーズの番外編”を意図的に依頼しているのではないかと疑ってしまう。

それ自体に反対をする気持ちはないが,すでに〈館〉という共通テーマがあるアンソロジーなのだから,”既存シリーズの番外編”までは必要はなかったのでないだろうか?

マーケティング上で必要という判断だったのかな?

ーーーーーーーーーー

各編について簡単に感想を述べる。

「思い出の館のショウシツ」はやみねかおる:VR的な体験を可能にする〈メタブック〉が成立している世界で,編集者の手塚と森永は,伝説のエディターのためにミステリー仕立ての〈メタブック〉を作成しろうとするのだが ・・・この作家なので,一定の距離をもって読む。これまでのジュブナイル作品で大人気を博し,一方で多くの読者を置いてけぼり状態にした経歴がある。と思っていたら,案の定短編集の冒頭からVR空間での事件であり,ますます冷めてしまった。館はVR,密室は今どき機械的で安っぽい。

「麦の海に浮かぶ檻」恩田 陸:一般社会とは相容れない少年少女が集められる学園は麦畑の向こうに佇む城だった。そこに新しい少女が訪れ・・・恩田陸は全作品を読んでいるファンだが,恥ずかしながらこの短編は再録だと思ってしまった。なぜならばあまりも過去の恩田陸作品に似ていたからだ。実に懐かしく恩田陸の”濃い”世界観を堪能した。館は血の濃さ,さすが。

「QED~ortus~―鬼神の社―」高田崇史:棚旗奈々は友人に誘われて藤沢の神社の節分祭りに行く。だがそこでは不思議な事件が起きる。それを解決するのは桑原崇という男だった。・・・あの〈QEDシリーズ〉の語られなかったオリジン編というだけでファンは喜ぶと思う。全部読んで感銘を受けたのだけれど,途中からワンパターンの印象が強くてあまり覚えてないんだけどね。
「時の舘のエトワール」綾崎 隼:白鷹高校の修学旅行で,折谷ひかりは友人に誘われ,時間が狂うという宿舎に泊まる。はたして彼女の前には,未来から戻ってきたという少年が現れる。・・・ここからは知らない作家なのだけれど,なかなか楽しめた。ただ,あまりにもトリックが見え見えなのと,探偵たちがとことんとんこつ背脂”濃い”のが残念。さらに言えばフランス語圏内では絶対成立しない設定だ。

「首無舘の殺人」白井智之:内容紹介はパス・・・他の方も書いているように,必要もないのに暴力的で汚いのが読むに耐えない。下劣過ぎる。
「囚人館の惨劇」井上真偽:山中で起きたバスの転落事故から生き延び,近くのさびれた館に避難した13人はここがネットで因縁のホラースポットであることを知る。その都市伝説に不安となる彼らの1人,そして1人が恐ろしい死を迎える。〈僕〉はなんとか妹・ちなみを守ろうとするのだが・・・小説としては一番驚きがあった。本来はミステリーの短編集のこの作品の中ではアンフェアな部分もあるが,きっちりと説明されるロジックは,強引なのだがスッキリさせてもらった。









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Last updated  2018.04.10 11:00:08
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