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―ねぇ何のために生きてるの?
彼女はぽつりと呟いた。 ―…え? それはあまりに唐突な問いだったから、僕は戸惑って彼女を見た。 彼女は真剣な面持ちで真っ直ぐ僕の事を見つめていた。 躊躇いがちに、僕は口を開いた。 ―…そうやって「何にでも意味を求めるのは人間の悪い癖だよ」。…なんてな。伊坂幸太郎の小説にそう書いてあったんだ。 …確かに人間は何でもないことからパターンを作ったり、意味を見出そうとしたりする。それは人類が今まで進化し生き残ってきた過程で備わった能力らしいんだ。だからすぐにパターンや意味を求めたがる。そんなもの、無いかもしれないのに。人間はさやっぱり生物だから、繁殖するために生きていて、それ以外の意味なんか特に無いかもしれない。 彼女は黙って僕の言うことをじっと聞いていた。いや見つめていただけなのかもしれない。僕は独り言のように喋り続ける。 ―でもさ、意味なんて無いかもしれないけどさ、人間は、思考を持ってしまった。パスカルは言ったんだろ?「人間は考える葦だ」って。僕たちは考えてしまうんだ。 だからこそ、僕たちは何のために、なんで生きているんだろうと、考えながら生きるんだ。答えがあるのか分からないし、人によって違うのかもしれないし、本当に分からないけど、でもそれって生きる人間なら誰もが必ず出会う普遍の問いじゃないか。だから思考力を持ってしまった人間の、宿命みたいなものなんじゃないかなって。…そうゆう風に僕は受け止めている。質問に対する答えになっていないかもしれないけど。 僕たちはさ、闇や悲しみや喜びを抱え、迷いつつ意味を探し、様々なことについて考えながら これからも生きていく。 それでいいんじゃないかな。僕はそう思うよ。 そう僕が言い終えると彼女はこくんと小さく頷き、きゅぅっと僕のことを抱きしめた。 彼女のあたたかな温もりを感じた。 あぁ、いつか今度は僕が尋ねよう。 ねぇ君は何のために生きているの?と。 静かな沈黙の中、どくんどくんと鼓動が大きく響いていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010/02/09 01:44:55 AM
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