「ジャパン・クール」 昨年夏の温かい?お話 ~レンヌ編~
夏のフランス一人旅もまもなく終わらんとするころ、レンヌrennesという町を離れ、パリに戻る日のことだった。ユースホステルを出て、車輪が壊れた、重い、大きいスーツケースをひきずってなんとかバス停に着いた。駅に向かうバスに乗るためだ。バス停には、高校生くらいの女の子が一人同じバスを待っていた。少しぼぅっとして待っていると「!!!ユースホステルの冷蔵庫に、食料忘れた・・・(;_; )!!」旅行も終盤、お金が底をつこうとしているときに、食料を失うのは大きな痛手だ。どうしても取りに戻りたい。でも、車輪が壊れた30キロの大荷物、これをひきずって戻るのはどうしてもいやだった。重すぎる。RYOSERA,迷いに迷って出した答えは、少女に「すいません、ちょこーっとの間、この荷物見といてもらえません?!」とお願いすることだった。みずしらずのアジア人旅行者が、突然荷物を見といてくれと、拙い英語で頼んでくる。絶対怪しい!!!と誰もがおもうはずだ。そのスーツケースに爆弾でも仕込まれていたところで、それもありうるご時世だ。なんとか引き受けてくれた彼女を背に、ダッシュで食料をとりにいった。5分足らずでバス停に戻ると、彼女はさっきと同じ場所にたち、スーツケースもさっきと同じ場所に置かれたままだった。「ありがとう」をフランス語で格好つけてみる。小さな笑顔で少女は答えた後、英語で話しかけられた。「日本人?」恥ずかしがりやらしい。照れくさそうだし、緊張している雰囲気がその質問をした少女の顔に映っている。しかし、ひとたび「そうだ」と答えると、彼女の顔は、一気に何かの花がぶわっっと開いたように輝きだした。「私、日本の漫画が大好きなの!!!!」どうやら、その愛情は半端がないらしい。今、日本でも人気のNANAをはじめ、ご近所物語などの少女マンガから、NARUTO、ONE PIECEといった、少年漫画、さらには、俺たちが少年時代に流行だった「幽々白書」まで彼女の口から飛び出す。バスに乗ったあともバスの中で彼女の漫画愛は止まらない。「漫画に出てくるような制服が着たくて着たくて・・・!!!」なるほど。さすが高校生の考え。「じゃぁ来ればいいさ!」軽く誘ってみると、そういうわけにもいかない家庭の事情があるようだ。彼女にとって身近な日本も、学びに行く、となるとお金がかかる。家族とも離れる。現実は遠い日本がそこにある。ちょっとかわいそう。そう思って、「このスーツケースに入れて連れていってあげたいよ」と冗談をいってみた。予想以上の返答。「ほんと!? いいの!? いくいく!!」いやいや・・・スーツケースに君が入ったところで、日本を見る前に天国を見ることになってしまう。あせった。彼女にとって、日本は、夢の国。スーツケースに入れていってあげる、という日本人は、夢の国への使者にも映らんとする勢いだ。小さいころから、誰しも漫画に触れ、育ってきた。そういう当たり前の日本文化が、海外で「憧れ」の的になっている。国は移るが、アメリカにある、天下のハーバード大学 界隈を散歩していると、大学書店のすぐ近くに、漫画本屋があった。アメリカでも日本の漫画は人気のようだ。もちろん、少年ジャンプも堂々と飾られる。横書きだから、日本のジャンプの裏表紙側が表になっており、値段は580円。最新号では、ドラゴンボールや幽々白書、ONE PIECEと、時代がばらばらの人気漫画が編集されていた。毎週、何気なく買える 漫画が、海外ではクールな高価本。漫画に描かれるフィクションの世界が、日本のノンフィクションと捉えられて憧れの世界になっていないだろうか。忍者がまだいる、なんて思うガイジンはもういなくなったとしても。漫画の日本が、日本の現実との齟齬を生んでいないか、という懸念も抱いた。「ジャパン・クール」が世界で流行している、という日経の特集を読んで、ちょっと思い出してみました。