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知的漫遊紀行

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Ryu-chan6708

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2006.09.25
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テーマ:戦争反対(1190)
カテゴリ:読書感想

私:知的漫遊記は、戦争街道にもどり、一昨日は戦後生まれの兵頭氏の軍事論だったが、今日は戦争体験者の山本七平氏の本に移ろう。

A氏:調べたら、氏は1921年生まれ、青山学院卒業とともに学徒動員で即日入営。
 1944年フィリピンのルソン島派遣、砲兵隊本部付、少尉にて敗戦、捕虜収容所に入れられる。
 日本に帰ってから、「山本学」と言われる評論を多く書く。
 1991年死亡。

:この本はまさに戦争末期に戦争の真っ只中にいた世代の体験をもとにした本だね。
 出版されたのが1976年だから、もう、この世代の人の体験や考えはこういう著書だけになってきたね。 
 俺は、山本ファンだったから当時、買って読んだ覚えがあるんだが、やはり、その後、平和ボケだかなんか知らないが、忘れていたね。
 また、読むとフレッシュな感じだね。

A氏:君は山本さんと直接会ったことがあるそうだね。

私:そうなんだ。1980年頃、製造業関係で研究会があり、その集まりに誰か有名人に講演をしてもらおうかとなった。
 俺は山本さんを推薦したんだ。
 そうしたら、研究会のある人が、彼は文化評論家であり、製造業の専門家ではないのではないかと反論した。

A氏:そうだね。日本教とかどちらかというと文化論だね。

:そこで、俺は山本さんが指摘していた日本陸軍の内情は、日本人の組織運用の問題を提起している。
 日本軍のような組織運用だと、工場の納期は遅れ、不良は山のようになり、ムダは無限に発生し、会社が敗戦となる
 だから、非常に参考になると主張して山本さんにきまったんだ。

A氏:なるほど。

私:事務局の人とたしか都心の市谷だと思うが、山本さんの仕事場に講演依頼に行ったね。
 これが山本さんと会った最初だ。
 市谷駅の近くの住宅街にある古い木造の仕事場に行き、そこの狭い階段を登った。
 2階に山本さんの書斎というか、仕事場があり、高い書棚に囲まれた狭い机で仕事をされていた。
 ベストセラー作家としては意外に質素だったね
 講演の趣旨を言ったら、快く、引き受けてくれた。
 一緒に行った事務局の人が「あまり予算がないので、10万円でよいでしょうか。」と聞いたら「結構です。」と即答されたね。
 非常に物静かな親しみやすい感じの人であったね。
 その後、山本さんとは講演会でお会いしただけとなったがね。

 この本を改めて読むと、たしかに、日本軍の組織は一般の世の中の組織よりひどいね。
 異常な世界だね


A氏:どういう点があげられるね。

:まず、「員数をつけるという員数主義」だ。
 軍人勅諭は5条だが、これには裏の勅語があり、第6条があり、それは「軍人は員数を尊ぶべし」だという

A氏員数検査とは企業でも棚卸しでやるね。
 帳簿数と現物数の一致の確認だろう?

:問題は検査よりその意味づけにあった。
 すなわち数さえ合えばそれでよい」が基本的な姿勢でその内容は問わないという形式主義だったんだ。
 それが員数主義の意味するところなんだ

 だから、「失くしました」という言葉は日本軍にはない。
 その言葉を口にした瞬間、「バカヤロー、員数をつけてこい」という言葉がピンタとともにはねかえってくる。
 すなわち、どこから盗んでくるんだね。

A氏:そういえば、俺が大学のとき、半導体の授業で、若い助教授がホール効果という説明に、その話をしていたね。
 教授は戦争体験があって、一人が軍帽をなくすと、他人の帽子を盗む。
 それが伝播して、その小隊に帽子が電流のように流れるという説明だった

:要するに、悪い情報は消されて、上にあがらない。
 軍の情報体系は大きく根底からくずれる
 この話で有名なのが、例の昭和天皇の御聖断のときに、阿南陸相は九十九里浜の陣地も完成しているから、本土決戦への体制も十分だというのに対して、天皇が言った決定的な言葉は「九十九里浜には、陣地などない」という発言であった 
 阿南陸相の頭には「員数として陣地はあるが、実体としてはない」というわけだね。

A氏:棚卸しで、あるべき在庫がないことをごまかして、粉飾決算をしたら、会社は終わりだね。

:だから、トヨタ生産方式では何よりも「悪いニュースを先に言う」ということをまず徹底する。
 そして、悪いニュースを先にいうことをほめる、叱らない。

A氏:例のBad news first主義 だね。
 われわれはとかくGood news firstになりやすいね。

:それから、責任と権限がめちゃくちゃだったということだね
 これは指揮系統の混乱となる。
 山本さんのこの本でも「辻参謀」が登場するね。
 フィリピンのとき、辻参謀がひそかに上の名前を騙って、捕虜の銃殺を指示する。
 これを山本さんは私物命令と言っているね。
 そして、それに伴うのは気魄という演技だという。
 どなるように声が大きいというやつかね。
 ロボットのようにきびきびし、大げさな軍人的なジェスチュアをする。
 辻参謀はこの気魄の典型だったようだ
 しかし、表向きの「作戦要務令」というマニュアルにはあくまで命令権は明確で参謀にはない
 このチグハグをアメリカはよく理解できず、戦後の戦争犯罪裁判で手を焼くことになるね。
 そして、辻参謀は逃げ延び、戦後、国会議員にまでなるのはご承知の通りで、山本さんはその経過に暗然とする。

A氏:残念ながら、ドイツのロンメル将軍のような敵方も認める名将が日本にいなかったんだね。

:最後に山本さんが、捕虜収容所の生活で、その無法的な状態を経験して、同様に日本陸軍は無法的な社会であったことを述べているね。
 陸軍は自然発生的な村の秩序しか知らず、組織を作って秩序を立てるという意識がないという。
 何かの失敗があって撲られる。
「違います。それは私でありません」という事実を口にした瞬間「言い訳するな」という言葉とともにその三倍、四倍のリンチが加えられる。
これは動物的攻撃性に基づく」秩序だという。
 山本さんは「陸軍は人から言葉を奪った」という。
 一方的ななぐる、どなる、リンチだけだね

A氏:その点、欧米の捕虜キャンプには秩序があったのだね

私:戦争のはじめ、日本軍の捕虜となったアメリカ人は自分たちを管理する実行委員会をつくり、委員長を選び、警察、公衆衛生、風紀、建設、給食、防火、厚生、教育などの委員会をつくる。その秩序を保つため、裁判所まで作ったと山本さんは指摘する。

A氏:一昨日の「武侠都市宣言」ではないが、すぐに自治組織を作るわけだね。

私:彼らの個人個人は日本人より偉いわけではないが、何か違うのだね。
 シベリヤの収容所でも同じような無法状態であったという。
 敗戦が原因ではないという。
 帝国陸軍には悪名高いリンチがあり、それは天皇の命令に等しいはずの直属上官の厳命でもやまなかったという

A氏:一方で天皇の兵隊という理想と、一方で無政府的なヤクザ集団との現実の状態はどうして発生したのかね。

:一昨日の武侠都市宣言ではないが、日本には虐殺され、奴隷にされる中世の歴史体験と、人命を徹底的に消滅される近代戦争にそった体質がなかったのかもね。
 だから、日露戦争のときの尉官クラスがその後に昇進して軍を把握していた間は、軍の暴走がなかったというね
 乃木大将は、日露戦争で日本に凱旋するとき、旅順の戦いで多くの死者を出したことにより、歓迎されないと思ったという。
 だから、大歓迎に驚いたという。
 しかし、やはり、乃木大将は明治天皇の逝去に対して、殉死しているね。
 山本さんは「歴戦の臆病者はいるが、歴戦の勇士はいない」というが、山本さんのような「歴戦の臆病者」もなくなってから15年。
 今の日本の指導者にも「歴戦の臆病者」がいなくなってきたね

 山本さんの本は「積んどく」本がかなりあるので、「山本学」にもどるかね。

 それにしても、今後、「美しい日本」はどういう人によって作られていくのだろうかね。

一下級将校の見た帝国陸軍

ある異常体験者の偏見






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Last updated  2006.09.26 08:11:43
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