知的漫遊紀行

　　　　　　　　　　　偽　　　　　　露

Ａ氏： いよいよ、年の瀬だね。
　先日、今年を象徴して、「今年の漢字」は「偽」に決定したね。
　次から次へと出る食品偽装、建材の強度偽装・耐熱偽装など、今年は「偽装」問題が多かったね。
　年金だって、一種の偽装だね。
　１２月になって、５０００万件の宙に浮いた年金記録を３月末までに照合を終えるという「公約」の「偽」が明らかになったね。
　そのまた、言い訳でミソをつけていた。

私：しかし、俺は、「今年の漢字」は「偽」だというのに、異論があるんだね。

Ａ氏：何故？

私：多発した「偽」の多くは、過去、長年にわたって行われてきたものだからだ。
　今年、特に「偽」を始めたものではないよ。
　だから、今年の特徴は、その「偽」が表面化したことだと思うね。
　鉄材の強度データなんて俺が若い頃から「偽」は常識だったよ。
　ところがそれが今年、急に表面化したのが驚きだね。

Ａ氏：なるほど、「偽」が多発したのでなく「発覚」が多発したのか。

私：内部告発が増えたんだね。
　以前は、従業員は会社と一体で忠誠心があったので「偽」をかくしていたが、経営者が従業員を家族でなく、コストとみなすようになってから、「偽」が発覚しやすくなったのかね。

Ａ氏：船場吉兆なんかは、最初、「偽」は経営者が知らないことで、従業員が勝手にやったことだと、責任を従業員になすりつけていたね。
　そういう経営と現場の敵対関係ができていたね。

私：経営者と現場との分離だね。
　赤福の若社長は、最初、記者会見で返品されたものは廃棄していたと説明していたが、廃棄していないで冷凍庫で保管して再度出荷していたというダブル内部告発でまた、謝っていたね。
　　問題は、経営者の「志」が消費者を向いているかどうかだね。
　　その「志」が従業員に徹底され、経営者と現場が一体となっていれば、「偽」は出ないのではないかね。
　吉兆も赤福も２代目くらいから現場から遊離したのか、おかしくなったようだね。
　現場がカネに見え出したんだろうね。

Ａ氏：ところで、君の「今年の漢字」はなんだい？

私：長年の悪事が多数「露見」した年なんで、「露」だね。

Ａ氏：守屋前防衛庁事務次官の長年のゴルフ接待も「露見」したしね。

私：「露」は水滴の「つゆ」という意味と、「露顕」「露出」のように「あらわす」「むき出しにする」「さらす」という意味がある。
　「露天風呂」の「露」もそうだろうね。
　漢和字典をひいたら、「露章」という言葉があったよ。

　「罪をあばく文書を天子に差し出すとき、封をしないで多くの人にわからせる。
　　転じて、上書（官または貴人に差し出す書状）して人の罪をあばく」とあった。
　　まさに、今年はこれだね。

Ａ氏：そう言えば、昨日のＮＨＫ・ＴＶの夜９時からの「ニュース９」によると、農水省の食品表示１１０番に食品偽装の内部告発電話が集中しているという。
　今年は告発電話が３６００件と異常に増加したそうだ。
　確かに「露」の年だね。

私：俺も見たが、食品表示１１０番の部屋の壁に「偽」という字が貼ってあったね。
　ついでに「露」を貼ったらどうかね。
　来年は、農水省ではさらに強化して特別Ｇメンを編成するそうだね。
　「露」は来年も続くだろうね。