私:1兆円の利益を出し、次は2兆円だと去年までは言っていたトヨタが、一転、大赤字だね。
A氏:俺も読んだが、09年度は最悪、「1兆円の赤字」も考えられるという。
私:販売台数の激減が、アメリカでも日本でも起きている。
こないだあるサラリーマンの車に同乗したんだが、彼は「本当はこの車はもう古いので買い替える予定だったんだけど、こんなに連日、マスコミでおどかされると、2、3年買い替えを待つようになりますよ。」と言っていたね。
しかし、企業には損益分岐点というのがあり、売上ダウンでも、赤字にならないように、いろいろ手を打っているはずなんだ。
特にトヨタはその点、慎重な企業だったはずだ。
トヨタの大幅赤字のニュースでその点がピンと来なかった。
それに新社長が「現場に一番近い社長でいたい」と言っていたが、現場主義はトヨタの基本理念で、DNAだったはずだから、何を今更と思ったがね。
それが、この文藝春秋のジャーナリストの井上久男氏の記事を見て納得できたね。
さすがのトヨタの経営内部でも甘い点が出てきて、そこに売上ダウンが直撃したんだね。
A氏:トヨタでは、02年に中長期の商品展開や販売・生産計画などを示す「グローバル・マスタープラン(通称・グロマス)」を策定するね。
私:「2010年グローバルビジョン」が出たので、そのビジョンに基づく具体的な計画だね。
この「グロマス」が、ノルマになり、「トヨタから志や夢が消え、数字優先の会社になった」とあるコンサルタントが言っているという。
「グロマス」のために、臨機応変の対応が遅れる。
A氏:いったん計画を立てたら、周囲の事情が変化しようと臨機応変に対応せず押し通す。
官僚の計画と似ているね。
一種の企業の官僚化だね。
私:「グロマス」はトヨタから経営の慎重さも奪ったという。
自動車産業は販売が減ると、高度の設備と多数の人員をかかえているので、一瞬にして赤字に転落する。
だから、伝統的にトヨタは工場建設に慎重だった。
しかし、「グロマス」をベースに工場建設を進めた結果、過剰設備に陥った。
A氏:「グロマス」とともに「GPM(グローバル・プロフィット・マネジメント)」という考え方も導入された。
経理部が中心になって、地域ごとに利益目標が机上で決められた数字が押しつけられた。
私:「かんばん」「あんどん」「カイゼン」など、泥臭い日本語中心のトヨタ生産方式がカタカナ英語が多くなるとやはり弱くなるね。
A氏:トヨタは多品種少量生産を得意とした。
同じラインで異なった車種を生産できるから、ある車種の販売が減っても大きな打撃にならない。
しかし、06年に稼動したアメリカのテキサス工場は、大型ピックアップトラック「タンドラ」の専用工場にした。
部品も専用にした。
だから、販売減に弱く、操業停止に追い込まれる。
私:新社長は、トヨタの現場経験豊かなメンバーで「明日のトヨタを考える会」を2月1日より発足させ、「現場中心で会社を変革してほしい」と檄を飛ばしたという。
この文藝春秋では、この記事の後、今回のトヨタ新社長人事に伴ない、会長に留まった張富士夫氏に対する井上氏のインタビューも掲載している。
張氏も、ここ十年くらいのトヨタの急成長で、トヨタ社員があまり苦労をしていないという懸念を表明していたね。
しかし、トヨタ生産方式の生みの親の大野耐一氏の直弟子である張氏は、トヨタが迎えた危機に対して、その大野流の「社員を生かす」DNAを復活させるだろうね。
「なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか」の復活だね。
張氏は、インタビューの最後に、トヨタをもう少し、スマートな形で復活しようと思っていると述べている。
A氏:トヨタはまだ、カネがあるからいいが、裾野の小さな下請群は持つかね。
私:急激な減産で、それが復活するときに問題になりそうだね。
それはトヨタも自分のことだけでなく考えないとね。