A氏:いつか自動車部品を作って輸出もしている会社の友人が、「俺のところはTS の品質マネジメントシステムの認証をとっている」と言っていた。
このTSって何だね。
ISO9001と違うのかね。
俺のところは、自動車業界でないのでよく知らないがね。
私:あぁ、それはISO /TS16949の略だね。
TSというのはTechnical Specification(技術仕様書)の略だね。
自動車業界のセクター規格だね。
ISO9001の数字同様に16949は意味のない登録番号だから、番号までは面倒で、TSだけで関係者はわかるね。
自動車部品メーカーが、欧米の自動車メーカーに部品を納入するときに、この品質マネジメントシステムの認証が必須だね。
1990年代に、当時のアメリカの自動車のビッグスリーであるGM 、フォード、クライスラーがISO9001をベースに共同で作った規格に「QS9000」というのがあり、ビッグスリーへの部品納入業者は、この品質マネジメントシステムの認証が必須だった。
しかし、名称からして、何かISOと別に独立したような規格なので、ISO9001の2000年版の改訂の時、ISO9001のワンランク下の技術仕様書という位置付けになり、「QS9000」はなくなったという経緯があるんだ。
A氏:品質マネジメントシステムとして内容的にISO9001と関係があるのかね。
私:TSの本文はISO9001そのものだね。
これに加えて自動車業界としての要求を、ISO9001の項目ごとに追加しているね。
ISO9001の原文は英文で、必須事項は、英語のshallで示されていると以前説明したことがあり、日本訳では「---しなければならない」と訳しているね。
shallはISO9001では136個あるが、TSではshallを137個追加しているから、合計273のshall要求項目があるということになる。
内容的にはトヨタ生産方式の影響が大きいね。
A氏:shallが多いということはそれだけ要求が厳しいというわけかね。
私:自動車業界に特化しているので、解釈の幅があまりなく、逆にISO9001より分かりやすいとも言えるね。
A氏:まぁ、俺のところは業界が違うから、関係がないね。
私:ところが、これが面白いことに、ISO9001を知るには深い関係があるんだね。
というのは、TSで追加したshallは、ISO9001では要求していないということになるんだね。
A氏:すなわち、ISO9001をよく理解するときに、その視点から解釈の助けになるということだね。
私:例えば、「6.4 作業環境」では、TSでは「6.4.2 事業所の清潔さ」というshallが追加されていて、職場の整理整頓や清潔さが要求されている。
これは逆に言うと、ISO9001では、この要求がないということだね。
A氏:そう言えば、このブログで以前「7.5.2 プロセス(工程)の妥当性確認」で「特殊工程」とは何かということで解釈の問題があったね。
ISO9001では、「7.5.2 プロセス(工程)の妥当性確認」は「特殊工程」にだけ適用されるので、何が「特殊工程」にあたるかで審査のときにもめるわけだね。
ところが、TSでは「すべてのプロセス(工程)に適用すること」と明確だね。
私:「7.3 設計・開発」については、ISO9001は製品設計だけが対象だが、TSでは「7.3の要求事項は、製品及び『製造工程の設計・開発を含み』、エラーの検出よりエラーの予防に焦点を合わせる」とあり、「製造工程の設計」も「7.3 設計・開発」に含まれる。
大体、「7.5.2 プロセスの妥当性確認」の趣旨は、「製造活動に入る前にプロセス(工程)の妥当性の確認をせよ」ということだから、換言すれば「工程の設計をせよ」ということだね。
だから、TSでは、当然、工程については「7.3」で「妥当性確認」をするので「7.5.2」とはダブルことになるし、さらに「7.1 製品実現の計画」とは「工程設計のアウトプット」のことだから、これともダブルね。
だから、「7.1」と「7.5.2」は「7.3」に吸収されて消滅だ。
スッキリするね。
A氏:そうか、「工程設計」の考えがしっかりしないのはISO9001の弱点であることがわかるね。
私:そのような意味でISO9001を「知的体力」を使って深く理解するにはTSは有用だね。