カテゴリ:連載小説-no title-
波立っていた鏡面が少しずつおさまっていく。
それにつれて、また鏡としての役割が復活していった。 そこには二人の人影が写っていた。 「………………え?」 それは驚愕と言うには掠れ、震えた声だった。 まるで寒さで凍えているようにカタカタと少女の身体が震えた。 恐る恐る手を頬に添える。 鏡に写る女性以外の人影も真似るように動く。 「何でッ?」 アレハ、ワタシジャナイノニ。 鏡に写るのは、少女ではなかった。 自分は平凡だと思っていた。 人より長い髪ぐらいしか変わらないと思っていた。 だが鏡に写るのは、黒い髪でも、低い鼻でも、黄色人種の肌でもなかった。 どう見ても日本人には見えない人が写っていた。 白色人種のなかでもさらに白いだろう肌。月色の髪。彫の深い顔だち。 これでは、まるで。 「まるで…………貴女じゃッ」 そう、これでは目の前にいる女性を若返らせた姿だ。 瞳の色が違うだけだ。 背筋にぞっと悪寒が走った。 これは、夢だ。 少女は呪文のように心の中で言い聞かせる様、くり返し唱えた。 女性は青ざめた少女を見てまたクスクスと笑う。 嘲笑うのではない。 本当にただおかしそうに笑っていた。 「だって」 鈴がなるように軽やかな声は、今の少女にとって恐怖しか与えない。 紅を塗ったような唇が動く。 やめてくれ、と叫びたい衝動に少女はかられた。 「あなたは、私ですもの」 「違うッ!!」 咄嗟に叫びは少女の口から飛び出ていた。 「じゃあ、アナタは誰?」 「…私は………」 少女はぐっと唇を噛んだ。 ぞくりと身体が震えた。 (……………あ、あれ?) 何故すぐに答えられないのだろう。 頭が真っ白になっていて、自分が誰なのか答えられない。 女性が楽し気にこちらを見ているのが混乱に拍車をかけた。 少女は混乱が極まって泣きそうになる。 震える身体を抱き締めつつ、どうしても視線を下がっていく。 「私は…………」 掠れた声で必死にどうにか答えようとした時だ。 第三者の声が少女の耳に届いた。 それは小さく、はっきりと聞き取れなかったが、それは少女にとってよく耳に馴染んだ声だった。 ろうそくがそっと灯るように小さな暖かさが心に滲む。 「………ッ」 少しずつ大きくなっていく声に背をおされるように真直ぐに前を向いた。 「私は」 答えを言おうと口を開いた時だった。 「朔ッ!!」 はっきりと耳に届いた声。 それと同時に視界が真っ白になった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年05月05日 17時05分27秒
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