テーマ:好きなクラシック(2282)
カテゴリ:ピアノ
アリス紗良さんを聴くのは3度目。 前回2011年にも記載したが彼女の演奏はCDで聴いてもすんなり心に入ってこないのだが、ライブでその穴を補って余りある魅力を発揮する彼女のステージ。 当夜もステージライトを浴びて演奏を楽しむ微笑に歌うかのようなさえずり、時には座席を見回し微笑む横顔があまりに美しい。 そう、聴衆の8割が男性という、昨今の若手男性ピアニストブームで女性がたくさん集うコンサートが多い中、希少な存在なのである。 まるで大地を裸足で感じるといわんばかり素足で登場する彼女。今夜も癒されてこよう~なんて思ったのが大間違い。 我が人生で初となる、「BRAVA!!」を絶叫することになる、手に汗握り壮絶なるクライマックスを迎えることになってしまった。 --- アリス=紗良・オット ピアノ・リサイタル 2012年11月05日(月) 19時開演 東京オペラシティ コンサートホール1列センター左 モーツァルト:デュポールのメヌエットによる変奏曲 ニ長調 KV.573 シューベルト:ピアノソナタ第17番 ニ長調 D.850 --- ムソルグスキー:展覧会の絵 (アンコール) リスト:パガニーニによる超絶技巧練習曲集第五番「狩」 シューマン:ロマンス第2番 --- 特にプロカメラマンの撮影では現物にがっかりすることが多い。 滅多にいない写真より美しい女性。アリスさんが、その人。 どんなジャケットやパンフレットより本人の方が美しい。 当夜は藤色のスカートで、トレードマークとなる素足で登場。 最前列で見る私には、恐縮ながらノーブラで登場したように見受けられた。 ナチュラル派とは聞いていたが。ちなみにサイン会はあぐら姿。 前半の印象は、自然児。とにかく元気である。 モーツァルトが一番しっくりしたか。 指の回りも相変わらず良く回り、クリアな音色の中に彼女の無邪気さが垣間見られる。 それは当夜特に弱音に気を配らず、むしろ中間音域以上を鳴らすことに意識していたためであろうか。 時に沸き起こる疑問も相変わらずなのだが、それを補いうるのが彼女のステージ。 演奏スタイルは姿勢良くスタンダードなのだが、タイトなドレス姿が我々男性に「女性」を意識させ、時々座席に目をやる微笑、横顔、そして素足での演奏が舞台を洋画の花畑の世界に変えてしまうのだ。 1曲目が終わり、早くも声援が。 ここで入場してきた聴衆を微笑で眺めながら着席するまで待つ気配り。見ていて退屈しない。 シューベルトは元気良すぎて1楽章に始まり、緩叙楽章の2~3楽章もとにかく元気。 残念なことには同じ曲に聴こえてしまうほどなのだが、強烈手前の大き目の和音の連打。 逆に4楽章がさら~っと弾いたかのようである。 そして後半の展覧会の絵。 なんてアリスさんに不似合いな選曲。 毎年何人もの鉄人たちの展覧会を聴き、その鉄拳ぶりに熱い拍手を送ってきた。 アリスさんは過去にもリスト・超絶のCDを出して男性と競い合うかのような演奏をしていたものだが、彼女にはもっとふさわしい曲があるのではないかと思った。 今日も無理しなくていいのにな・・、とチケットを買う際にやめようか迷ったほどである。 この可憐な彼女から、まさか脳天をハンマーでぶん殴られるほどの衝撃を受けることになろうとは・・・。 プロムナードは相変わらず元気が良い。根あかの展覧会の絵。 その絵はロシア巨匠たちのモノトーンで壮大な絵ではなく、キャンパスからはみ出んばかり意欲的な20代若手のカラフルな絵。 陰鬱な絵は一切無し。 途中和音に埋もれてテーマの輪郭がぼけてしまうあたりもいつもどおりなのだが、彼女のキャラがそんなことどうでもいいと思わせる。 2度目のプロムナードで髪の毛をかき上げ一呼吸。まるで3部で演奏しきったリフシッツのよう。 最後のプロムナードの前でも休憩し、意識を集中。 当夜唯一の美音を聴かせたのは卵の殻をつけたヒヨコの踊り。ペダルを踏んだ弱音がとても美しかった。 死者とともに死者の言葉で、からバーバヤーガに一気に突入。 ここからは、体全体、背筋をも使った出せる最大の音を出しながら突き進む。 素晴らしい演奏とは崩壊するかしないかギリギリのところでの演奏、というようなことを言ったのはかのリヒテルだが、当夜の彼女がそう。 美形キャラを忘れることもできず、目も耳も釘付け。 ボルテージが上がったところで、ふ~っと音を抜いて、キエフの大門へ。魂が半分抜けた・・・。 抑え目の中間音域での出だしながら、クライマックスに向けて次々と盛り上がる若々しい大門。 そこには汗だくで懇親の力を振り絞る彼女の姿が。 とにかく壮大に、とにかく大きく。そう描いてやまない彼女の怒涛のラスト。轟音に我を忘れてしまった。 アンコールのリスト=パガニーニ。残る力を全部出し切る名演。 ドアのところに手をつき、退場しながらよろけるほどだった。 おやすみなさいのシューマン。 そして大行列のサイン会。一人ひとりに笑顔でご挨拶。 感涙したことを告げると元気なご挨拶を頂いた。 そして写真禁止がうたわれた今夜、誰一人写真を撮る者がいなかったのは聴衆から今夜の演奏へのお礼・労いでもあろう。 今年出色の名演に出会った夕べである。 まいった。キャラが違うじゃないか・・・。 これからは、どのキャラを期待すれば良いのだろうか(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012年11月05日 23時34分14秒
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