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2009年02月18日
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村上春樹のエルサレム賞受賞スピーチ全部知りたいなあと思って探したら、

http://d.hatena.ne.jp/sho_ta/20090218/1234913290

のブログにあるスピーチ翻訳が一番詳しそうでした。

スピーチの原文もその場の記者が聞き取ったらしいから、どこまでに正確かはわからないけれど。

翻訳も微妙なニュアンスは難しいだろうしね。

~~~ ここから ~~~

『HAARETZ』紙に掲載された村上春樹のエルサレム賞受賞スピーチ

いつも「卵」のそばに 村上春樹

本日、僕はここエルサレムに、プロフェッショナルな「嘘」の紡ぎ手、すなわち小説家としてやってきました。

もちろん、嘘をつくのは小説家だけではありません。政治家もまた、嘘をつきます(これは皆さんよくご存じですよね)。

外交官も、軍人も、機会さえあえば、中古車のセールスマンや肉屋、建築業者であっても、彼らなりの嘘をつきます。

しかしながら、小説家のつく嘘は、彼らの嘘とは違います。彼らが嘘をついた時のように不道徳だと責め立てられることはありません。

それどころか、小説家の嘘が器用であればあるほど、世間や批評家たちからより大きな賞賛を得ることができるのです。

これはなぜでしょうか?

僕なりの答えはこうです。

つまり、小説家によってつかれた巧妙な嘘は、あたかも本当のように見えるフィクションを作り出すことによって、新たな場所に「真実」を導き出し、その真実に新しい光りを照らすことができるからです。

多くの場合、「真実」をもとのかたちのまま理解し、正確に表現することは事実上不可能です。

だからこそ僕たち小説家は、その隠された場所から真実を誘い出して尻尾を掴もうとし、フィクションの位置に移し替え、フィクションのかたちにそれを作り替えるのです。

しかしながら、僕たちがこれを達成するためには、まず最初に真実が僕たちのどこに属するのかを、はっきりさせる必要があります。

これが、上手に嘘をつくための重要な資質です。

けれども本日、僕は嘘をつくつもりはまったくありません。

それどころかできるかぎり正直でいようと努めます。僕にだって年に数日は嘘をつかない日があるし、今日はたまたまその日なんです。

ですから今日は、どうか皆さんに本当のことを言わせてください。

本当に多くの人々が、僕に「エルサレム賞を受け取りに行くな」と忠告してきました。

或る者は、もし僕が受賞するなら僕の本に対してボイコットを扇動すると警告さえしました。

その理由はもちろん、ガザで激しく続いていた戦闘です。

国連のレポートによれば、封鎖されたガザ地区では1000人以上の非武装市民――子供や老人たちが命を落としました。

受賞の通知を受け取ってから、僕は何度も何度も自問しました。

「こんな時期にイスラエルにまで旅行して、文学賞を受け取ることは適切な行動なのだろうか?」

「僕はどちらか片方を支えることになり、圧倒的な軍事力を行使する国策を是認したと思われやしないか?」。

もちろん僕は、そんなふうに受け取られるのは御免です。

僕はどのような戦争にも賛成しないし、どのような国家も支援しません。そしてむろん、僕の本がボイコットの憂き目にあうのを見たくはありません。

しかしながら、熟考のすえ、最終的に僕はここに来ることを決心しました。

僕がここに来ると決めた理由のひとつは、あまりにも多くの人々が僕に「行くべきでない」と言ったことです。

おそらくほかの多くの小説家と同じように、僕は天の邪鬼です。

多くの人々から「そこに行くな」、「それをしないでくれ」と警告を受けると、そこに行き、それをしたくなる傾向があるのです。

あなた方は「それは小説家だからだよ」と言うかもしれません。

そう、確かに小説家は特別変わった種族です。この連中は、自分の目で見たもの、手で触ったものしか本当に信じることができないのです。

それが今日、僕がここにいる理由です。

僕は立ちすくむよりもここに来ることを、目を反らすよりも見つめることを、沈黙するよりも語ることを選びとりました。

これは僕がいままさに、政治的なメッセージを伝えにきた、という意味ではありません。

もちろん、あることについて正しいのか、間違っているかの判断をすることは、小説家の重要な義務のひとつです。

けれども、こうした判断をどうやって他の人々に伝えるかを決めるのは、それぞれの書き手に任されています。

僕自身は、そういったことを物語、それも超現実的な物語に移し替えて示すことを好みます。

これが今日、僕が直接的な政治的メッセージを伝えないにもかかわらず、皆さんの前に立った理由です。

しかしながら、どうか皆さん、ここで非常に個人的なメッセージを送らせてください。これは僕がフィクションを紡ぐ時、常に心に留めていることです。

僕はそれを一枚の紙切れに書いて壁にはっておくというよりもむしろ、僕の「心の壁」に彫りつけられていること……それはこういうことです。

「高く、固い“壁”と、それにぶつかると割れてしまう“卵”があるとき、僕はいつも卵のそばにいる」

ええ、どんなに「壁」が正しく、どんなに「卵」が間違っていようとも、僕は「卵」のそばに居続けます。

どこかの誰かが「何が正しくて、何が間違っているのか」を決めるとき、それはおそらく時間と歴史が決めるのでしょう。

けれどもし、どのような理由があろうとも、壁のそばに立って仕事をする小説家がいたとしたならば、その作品にはどんな価値があるというのでしょうか?

このメタファー(暗喩)はいったい何を意味しているのでしょうか?

それはいくつかの場合において、とてもクリアで単純です。

高く固い「壁」とは、爆撃機であり、戦車であり、ロケット砲であり、白リン弾です。

そして「卵」とは、それらに壊され、燃やされ、撃たれる非武装市民……、これがその暗喩が意味することのひとつです。

けれどもそれがすべての意味というわけではありません。

もっと深く考えることもできます。こう考えてはどうでしょう。

僕たちひとりひとりが、多かれ少なかれ「卵」なのです。僕たちは唯一かけがえのない魂を内包した、壊れやすい殻に包まれた卵なのです。

これは僕にとっての真実であり、皆さんにとっての真実でもあります。

そして僕たちはそれぞれ――多少の違いはあっても――高くて固い壁に直面しています。

その「壁」の名は、そう、「システム」です。

システムは僕たちを守りを固めるためのものですが、しかし時折自己増殖して、冷酷に、効果的に、システマティックな方法で、僕たちに殺し合いをさせるようし向けます。

僕が小説を書く理由は、ひとつしかありません。それは個々人の魂の尊厳を立ち表わせ、光りをあてることです。

「物語」の目的とは、システムが僕たちの魂を蜘蛛の巣のように絡め取り、その品位を落とすことを防ぐために、警戒の光りをあて、警鐘を打ち鳴らすことです。

僕は強く信じています。物語を書きつづること、人々に涙や慟哭や微笑みをもたらす物語を書くことによって、個々の魂のかけがえのなさをはっきりさせようとし続けること、それこそが小説家の仕事であると。

僕の父は昨年、90歳で亡くなりました。彼は教師をリタイヤし、たまに僧侶として働いていました。彼が大学院にいた頃、軍隊に招集され、中国戦線に送られました。

戦後生まれの僕は、彼が朝食前に必ず家の仏壇の前で深く祈りを捧げる姿をよく見かけました。

ある時、僕は父に「なぜお祈りをするの?」と訪ねたところ、彼は「戦争で亡くなった人のために祈っている」と答えてくれました。

彼は敵味方の区別なく、すべての人のために祈りを捧げている、と語っていました。

仏壇の前で正座する彼の背中を見ると、僕は彼に死の影がまとわりついている、と感じました。

そんな僕の父も、彼の語った思い出とともに死にました。僕はもうその思い出を知ることはできません。

けれど、彼のまとっていた死の存在感は、僕の記憶に残っています。それは彼が僕に遺してくれた数少ないなかのひとつ、そして最も重要なものです。

僕は今日、皆さんにお伝えしたかったことはただひとつです。

僕たちは誰もが人間であり、国籍や人種や宗教を超えていく個人であり、システムと呼ばれる固い「壁」に直面する「卵」だということです。

どう見たって僕たちに勝ち目はなさそうです。壁はあまりにも高く、あまりにも強く、そしてあまりにも冷たい。

もし僕たちに勝利の希望がいくらかあるとすれば、それはかけがえのない独自性を信じ、自分と他の人々の魂とを互いにつなぎ合わせた「暖かさ」に頼るしかありません。

少し考えてみてください。僕たちはそれぞれ、いまここに実態のある魂を持っています。

システムはそれを持っていません。

僕たちはシステムが僕たちを司ることを許してはなりません。

僕たちはシステムがひとり歩きすることを許してはなりません。システムが僕たちを作ったわけではない。僕たちがシステムを作ったのです。

これが今日、僕が皆さんに語りたかったことのすべてです。

僕はエルサレム賞をいただいたことに感謝します。

僕は世界中の多くの地域で僕の本が読まれていることに感謝します。そして今日ここで、皆さんに語る機会をもらえたことにもまた、感謝します。

http://www.haaretz.com/hasen/spages/1064909.htmlより拙訳

~~~ ここまで ~~~

このスピーチについてもっと考えたい方は、「モジモジ君の日記。みたいな。」

村上春樹、エルサレム賞授賞式でイスラエルを批判

「村上春樹」を巡る政治

がおすすめです。





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最終更新日  2009年02月19日 00時31分10秒
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