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トールも製作に関わったオラクルカードです♪

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2011年10月28日
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※作中えぐい表現があります。苦手な方はお気を付け下さい。



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「よう。元気か?」

無遠慮に開けられたドアの脇。若い男の赤茶の髪をかすめ、飛ばした指弾が硬質な音を立てて跳ね返る。うっかり制服組に当てたら処罰ものだから、銀玉は威嚇であってはなから当てるつもりはない。
体内時計は、約20時間眠ったと告げている。
声の主は小さく口笛を吹いて、面白そうに緑色の目を細めた。

「弱っても戦闘員か。たいしたもんだ」
「……」
「そんな目で見るな。お前のチーム司令官が土産を持って来たんだぞ?」

男は今の「飼い主」の遠縁にあたるという、幹部候補だった。戦略部の司令官は1年だけの腰掛けという話だ。家は豪邸で、家柄が良くてきれいな婚約者がちゃんと待っているらしい。
男はベッドサイドテーブルに持っていた袋からミネラルウォーターやゼリー飲料をいくつか出しながら、ねっとりした視線を絡めてきた。

「女王がお待ちかねだ。…だがその様子じゃすぐは無理だな。5日、休暇をやるからその間に治せ。通ってやるから」
「……」
「愛してるよ、グラディウス」

舌なめずりする男。
嘘とわかっていても愛の言葉を囁かれるのは滅多になくて、だから一瞬心が揺れる。
揺れた後に、そんなにも飢えているのかと自分に呆れ果てる。
幻想を追って、最後に傷つくのは自分なのに。自らを「父さん」と呼ばせていた前の飼い主にあっさりと捨てられた時、嫌でも身に染みたはずなのに。
誰も、信じてはならないのだと…。

それでも、5日の休暇は魅力的だった。
水を飲んだ後小一時間相手をしてやり、満足げにドアが閉められた直後にベッドの上へ突っ伏す。急に催して血の混じった胃液を横の床に吐いてしまったが、掃除する気力はすでになかった。
何に吐き気を催したろう。行為に、相手に、あるいは刹那の快楽に溺れようとする自分自身にか。

悪臭が立ち込めるだろうが、それが人払いになるならいいか、という思考が脳裏をよぎる。
そしてまた神経の一部を立てたまま、眠りの海に落ちた。



「汚いね。なんて汚らしい背中だ」

5日後、背中一面のゼリーパッドを剥がさせた「女王」は、不機嫌そうに煙草をベッド脇の灰皿におしつけた。
以前の飼い主に入れられた刺青を消すため、全面を焼かれた背中は所々に水ぶくれが破れ、茶色い皮膚が垂れさがっている。その上何か所にもつけられた傷には筋肉が盛り上がり、お世辞にも綺麗とは言い難い。
右腰は刺し傷がふさがったばかりで、縫合の糸もまだついたままだった。

「…申し訳ありません」

せいぜいしおらしく詫びる。刺青を入れたのも消したのも怪我をしたのも自分の意志ではなかったが、使い捨て玩具のような自分たちには、その答えしか許されてはいない。
女性幹部の太い指が顎をわしづかみにし、彼女のほうを向かせる。長く伸ばした爪が頬に食い込んだ。

「あんたたちは所詮ドブネズミ。人間様とは違うんだから、せいぜい綺麗にしておかなけりゃ。そうだろう?」
「はい」
「それがこんなに汚くちゃ興醒めだ。せっかく珍しい顔している若いのを手に入れたのに。いっそ皮膚移植でもしたほうが早いかね?」

顎を掴んだまま振り返ると、あの赤い髪の男が笑っていた。

「そうですね。実験体からきれいなのを選べば、それもいいかと。あるいは新開発の人工皮膚もありますよ。痛覚遮断の仕掛けがあるとかで」
「痛覚遮断?」
「ええ、戦闘員専用です。神経節に伝わる痛みのシグナルを減殺させることで、より戦闘に特化させる。研究員がちょうどこんな実験体を探していましたよ」

男の声に、女は少年の顎を握ったままでにんまりと笑った。

「そうするかね。痛みを知らず攻めてゆけば戦績も上がるだろう。どうせ数年の使い捨てだ、見栄えもケロイドよりましだろう」
「かしこまりました。手配しましょう」

慇懃に一礼した男は、底光りする瞳をあげた。

「ついでに新しい刺青の手配も?」
「そうだね。前の飼い主のがあるのは苛々する。といってこのままケロイドの汚いのも嫌だし、のっぺりした人工皮膚もね」
「今度のは本物とそう区別がつかないそうですよ」

ふん、と女は吐き捨てると、男の膝元に傷を負った細い身体を突き飛ばし、ぺろりと自分の唇を舐めた。

「まあ、今日はあたしはもういい。あんたがやりな。見てるのならとびきり痛いのがいいね」
「かしこまりました、女王様」

恭しく答えてのしかかってきた男が、耳元で囁く。

「可哀想に、そんな訳だから今日は諦めてくれ。また今度、優しく抱いてやるからな。俺は他の奴らとは違うんだ。愛してるよ、グラディウス」

愛の言葉とキスで始まるそれは、しかし注文通りにひどく痛くて。擦れた背中から、そして指を突きこまれた右腰からまた新しい血が流れた。

「ほんとに汚ねえな…。せっかく紅顔の美少年てやつなんだから、こう、白くて滑らかな背中ならもっとそそるのに」

追従か本心か、呟かれた言葉が耳に入る。
身体も心も痛みはもうとうに麻痺して、ただ遠くに感じるだけだった。しかし鳴かなければもっとひどくされるから、適当にくぐもった悲鳴を出しておく。
男がまた囁いた。

「明日は戦闘だから、手加減しておくよ。勝ってこいよな」

無茶なことを言っているという自覚は、おそらくないのだろう。

どうせ皆好き勝手に使い捨てて通り過ぎてゆく… 今自分に乗っている男も飼い主の女も、刹那の一幕を演じこの身体を好きに抱いて去ってゆけばいい。


…… 誰も、残りはしないのだから。














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最終更新日  2011年10月28日 16時04分39秒
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