『ランド・オブ・プレンティー』
アメリカにさえも優しい映画--そういう印象を受けました。“アメリカ”とは違う位置にいるにもかかわらずヴィム・ヴェンダース監督は、アメリカの罪だけでなく痛みにも思いを馳せていました。 私はヴェンダース監督の作品の中では『ミリオンダラーホテル』がもっとも好きだったのですが、あの映画もニューヨークの罪と痛みを優しさでもって描いた作品でした。その“ミリオンダラーホテル”を背景に『ランド・オブ・プレンティ』では、ラナは屋上で踊るのです。そういえばミリオンダラーホテルの屋上では、銀色のドレスを着たエロイーズに一瞥してトムトムは地上に降りましたね。 「アメリカ」とか「ニューヨーク」というのは一つの記号にすぎないのかもしれないのでは?とも思います。考えてみれば、ヴェンダース監督の優しさは、その作品全てを覆っているように感じます。ゴールキーパーにも、赤いドレスの女にも、そしてベトナムから帰った元兵士にも。 『ランド・オブ・プレンティ』では最後、ラナとポールはグラウンド・ゼロにたどり着きます。そこでラナは言うのです。声高に怒るのでもなく、無邪気に悲しむのでもなく、「沈黙しましょう」と。涙が止まりませんでした。