|
カテゴリ:カテゴリ未分類
大学時代、サークルの1学年上級に平原さんという先輩がおられた。 私は浪人して入学したので実際は彼と同い年であったが、入学年度による上下の規律がそこでは徹底されていた。 大学の駅前に新しく洒落たレストランができたというので、『角万、味見に行くぞ』と平原先輩が私を伴い行く事になった。 ラリラリラ~ン・・・(注)人が歓ぶ時に発する声 嬉しいな平原先輩の奢りだ。 店に入ると目の前に大きなカウンターがあり、若い女性が元気良く『いらっしゃいませ』と迎えてくれた。 新装のお店、且つ過去見た事の無い内装の色使い、斬新なマークをキョロキョロしながら見ていた。緊張してたのか、私たちはロボットのようにぎこちなくテーブルに着いた。 ウエートレスが来るまで待つ事・・数分間、ところがそのウエートレスが一向に来ない。 私たちは不安になって一緒に、先程のカウンターの女性を伺う。 女性は恐縮そうに『ご注文はこちらで御願い致します』とカウンターに手の平を向けた。 『なーんだ、ハハハ、君も知らなかったのか?・・アヒャアヒャヒャヒャヒャヒャ』 『平原先輩も!?・・・ヒホヒホヒホホホホ』 アハハと言いながら彼の右頬は酷くこおばり、私の頬は酷く引きつっていた。 私たちは愛し合ってもいないのに、お互いを見つめるしか無かった。 そうなんだ。この時が転機だった。 私たちは初めてマクドナルドハンバーガーの注文の取り方を学んだ。 そんな事があってまもなく、サークルで新入生歓迎コンパが盛大に行われた。 しこたま酒を飲まされて酔いつぶれた。 気がつくと北池袋にある、平原先輩の汚い四畳半に寝ていた。汚ねェェェ ・・・・・・・・ 夜中にチクショウ、チクショウと押し殺すような声が聞こえてきた。真横で平原先輩が布団にうつ伏せになってすすり泣いていた。 何故彼が泣くのか? 私には分かっていた。彼は先輩や同期生から不当な扱いを受けていた。 田舎から都会に来た、それだけで差別されていた。 ただ私は酔いと吐き気で頭がガンガンする中で、声を掛ける術も無く、布団の中でワイパーのようにのた打ち回っていた。 若い男が二人。 一方はすすり泣き、一方は悶え苦しんでいた。 朝起きると先輩は居なかった。吐かれる事に備え、枕元には大きな青いポリバケツが置かれてあった。私はそれを抱きかかえるように眠っていた。 ・・・・(注)酔うと意味の無い物を抱きしめる癖は今も変わらない。先日も居酒屋の便所にある、オマルを抱きすくめ頬擦りをしていて、ゲッとなった。もう、頬ずりはつかない。 『昨日はお疲れ様、大丈夫か? 俺は授業があるから先に行く。盗られるものは無いから、鍵は閉めなくてもいいよ』とメモが書かれてあった。 泣いていたとは思えない晴れ晴れとした字で、メモから字が溢れ出ていた。 昨日の事は本人には勿論、誰にも言わない事を私は心に決めていた。 部屋を見回すと、部屋中にマルクスや梶井基次郎の本がギッシリと積んであった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|