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故・松田勇作を見たことがある。渋谷警察署前でロケをしており、撮影を終えた彼が被っていた帽子をクシャクシャにして、歩道橋を渡りこちらへ歩いて来た。 長身で手足の長い人だった。 彼の主演映画、大藪春彦原作の『蘇る金狼』や『野獣死すべし』を見ており、多大な影響を受けていた。俺も野獣になりたかった。 ・・・だから、 昼間はレイバンの眼鏡をかけ、精力的に仕事をこなし実直なサラリーマンを演じた。仕事が跳ねると一目散に空手道場へ通い、サンドバックを蹴りまくる。体脂肪を極力削った肉体の完成を目指していた。サウナで汗を流すと今度はライトアップした東京タワーが見渡せる、東京ベイにあるバーIJU25へ出かけ、カウンターに腰を降ろした。 IWハーパの入ったグラスを掲げ、東京タワーをグラスの中へスッポリと収めてみた。 それを透かして見せてつれの女に、『タワーを君にやるよ』と言った。 ・・・ 俺は野獣になりたかった。 地位と名誉と財産を得るにはどうしたらよいのか、執念と欲望を身体の隅々に撒き散らしていた。 ・・・ あれから月日が経った。 ・・・今日は俺がカレーライスを作る日だ。 知り合いの元力士にチャンコ鍋のスペシャルレシピを教わっており、チャンコは2回作って2回とも家族に絶賛された。だから迷わず元力士にカレーのレシピを教わった。 バナナとリンゴと板チョコレートとコーヒーの粉。 決め手はこれだった。 ルーにひと箱8皿分と書いてある。もうひと箱を使用する。 うまい、うまいと何回もお変わりする筈だ。 だとするとこのレシピをどの位用意したらよいのか? まあ、男の手料理は豪快でないと、こまい事は気にしないで。 だから家で一番デカイ鍋を出した。 バナナは3本位あれば足りるだろう。板チョコ1枚全部、リンゴ1個、コーヒーをフリカケみたいに入れる。これで濃くが出る。 子供達は甘口でないと駄目なので、見るからに甘いし歓ぶぞ。 さあ、出来たぞ。味見だ。 『ウンさすが、フルーティーな味付け。ちょっと甘いけどいける、いける』 さあ、みんな食べて、遠慮しないで。いっぱい作ったから。 見た目もよい。みんな期待に胸を膨らませているのが手に取るように分かる。 女房も長男も次男も一口食べた。・・・ 急激に黙り込む。眉間にシワが波紋のように寄リ始める。 長女に至ってはプッと吹き出し、嬉しそうに笑い出す。 ヨ~イドンで女房の追求が始まった。 『お父さん、バナナ何本入れたの?』 『3本だけ』 『他には何入れたの?・・・』『。。。。と。。。と。。。。』 『えっ!・・・だって、えっ?・・・もう』 『そんなに入れたんじゃ隠し味でも何でもないじゃない。全然隠れてなくて超甘すぎで~す。 これはカレーライスではありませ~ん!!』 ・・という事になり、以後3日間誰も食べないカレーライスを俺一人食べる事になる。 俺はつくづく野獣になりたかった。 地位と名誉と財産を得るにはどうしたらよいのか。 ・・・一体いつになったら野獣になれるのか。 遠吠えをしたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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