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高校時代の夏休み、ゴルフクラブを製作している工場でアルバイトをした。 そこで元・タクシーの運転手である岡本さんと知り合った。 アルバイト採用の岡本さんが入社して6日目、 『おっかないオバサンに怒られちゃったよ』と愚痴をこぼした。 どうも先輩であるパートのおばさんに叱られたようだ。 私に話したって何の解決にもならないが、話す事自体がストレス解消だったようだ。 『まァ、何処にでもいるよな、ああいうオバサンは。だいたいベルトコンベアーの近くにモップなんか置いとく方がおかしいじゃんか?。こっちはクラブの部品だと思ってベルトコンベアーに乗っけてやったのに、ギャギャー言って。・・・』 (そんな大声でしゃべってると、例のオバサンに聞かれると気が気じゃなかったが・・) 『まっ、犬も歩けば猫に当たるって言うし。気にしない、気にしない』 (・・・オカモトサン! オカモトサン! 小声で言うけどね、猫じゃなくて棒でしょ?・・ 確かにね、犬だって猫に出会うだろうけど・・) 『人生ってやつはな、対戦カードが組まれてるんだ。オバサンとのバトルが勃発さ。でもこうやって人間は成長していくんだ。ハハハハハ・・』 岡本さんは何処か憎めないおじさんだった。 『〇△精工のスポーツ用品は、外国にも運ばれていくんだぞ。でっけえ船でよ』 それが唯一彼の自慢だった。子供みたいに目を輝かすおじさんだった。 おじさんの子供の事を聞くと、高校生の娘が一人とポツリ言ったが、それ以上触れて欲しくない印象だった。 むしろ娘の事より私に関心が強く、バイトで貯めた金は何に使うのかと聞くので、キャンプに行く計画を話した。 ・・・・・ 当時私は父親との間に葛藤があり、父と同年代の人とフランクに話せる事が驚きであり、素直に父と迎え合えない自分に対して、懺悔のような気持ちを抱いていた。 岡本さんは、我が子に話すように自分の事を 『お父さんを・・・』と一度間違えて言ってしまった。しかし訂正する事なく、 『お父さんを・・・・・・おじさんを一緒にキャンプへ連れてってくれたら、お菓子の事は任しといて。おじさんが好きなだけ買ってあげる』と言った。 最初にお父さんと言ってしまったのは、私を息子のように思っていたからなのか。 そしてお菓子を引き合いに出した岡本さんのように、私の父もまた、何か物で釣って自分の言う事を効かせようとした事が度々あった。 幼い頃を想い出しひどく悲しくなった。 お菓子なんか、買ってくれなくたって、連れてってあげるよ。 ・・・ そう思ったが、それは叶わなかった。 バイトの最後の日、 ・・・ 『角万君は将来立派な大人になれるよ。また何処かで会いましょう。キャンプ、気を付けて、 行ってらっしゃい』 丁寧な挨拶をしてくれて、私を送り出してくれた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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