カテゴリ:青春時代「アメリカンシネマ」
「地獄の黙示録」失敗の原因は、ベトナム戦争を扱ってしまったということが第一に考えられます。
戦争がおわったばかりの状態で、体も心も傷だらけのままベトナム戦争を振り返るのは難しい。 さらに、ベトナム戦争は背景であって、本編のメインテーマとずれていることが、中途半端な描き方になり、消化不良を起こす原因になっています。 コッポラはたぶん、戦争というスペクタクルをスクリーンに映したかっただけだと思います。 黒澤が、戦国の合戦を壮大な絵巻物のごとく写したかったように。 でも、ベトナムは生々しすぎました。 だんだん収集がつかなくなる自分にそうとう苦しんだと思います。 もともとこの企画は、子分のジョン・ミリアスの脚本をコッポラが買い取って、これまた子分のジョージ・ルーカスに撮らせようとしたものでした。 ところがルーカスの頭の中は「スターウオーズ」でイッパイだったので、しかたなしに自分で撮る羽目になったのです。 もし、「地獄の黙示録」をルーカスが撮ってたら?と考えてみると、「インデイ・ジョーンズ」のベトナム戦争版が出来ていたかもしれない。 まあ、ルーカスは「スターウオーズ」で正解でした。 「地獄の黙示録」の原題は「APOCALYPSE NOW」で、“apocalypse”は“黙示録”、一般には“ヨハネの黙示録”のことです。 この“ヨハネの黙示録”、聖書の中でもかなりいかがわしい。 宗派によっては聖書に入れてないんじゃないかな。 「オーメン」で出てきた“666”という悪魔の数字やオーム真理教が洗脳に利用した“ハルマゲドン”などが登場します。 本来キリスト教には、悪魔はいないはずですが、これは“サタン”との戦いが中心になっています。 オカルト好きにとってはまさに聖書です。 で、この中に“千年王国”というものの記述があり、まさに「地獄の黙示録」の黙示部分はこれだったと察せられます。 だから、物語の中心はベトナムの奥地に“千年王国”を築いたマーロン・ブランドとの戦いの部分になるべきなのに、前述したようにその肝心な部分を撮る前に、まちくたびれたブランドは帰国してしまい、戻ってきませんでした。 本国で「スーパーマン」にアルバイト出演をして300万ドル稼いでました。 だから、ブランドとマーテイン・シーンのツーショットシーンはありません。 これってひどくありません。 さらに、この作品の評価を混迷させたのは、ラストの解り難さです。 なんでこんなになっちゃったのかというと、コッポラはラストを決めないで撮影に入っちゃってるんですね。 撮っている流れで決まってくると考えていたらしいけど、これはダメです。 それではドキュメンタリー映画です。 ドキュメンタリー映画ならまったく違う手法が必要になります。 そもそも架空の話をドキュメンタリーで撮るのは不可能でしょう。 まあ、そんなこんなで映画館を後にした当時の僕は不満でした。 表面的には、戦闘シーン(というか破壊シーン)の迫力とか、ライティングとか誉められそうな部分を探して評価してましたけど、ラストに関しては意見保留にならざるを得ませんでした。 ウイラード大尉の心がつかめないのです。 で、内心失敗だなあと思いつつも、やはり秀でた部分は素晴らしいので、ライブラリーにはしっかり残っていました。 それが、20数年を経て、2002年「地獄の黙示録 特別完全版」というものが、新たに発表されました。 もともと2時間33分という長い映画に、さらに足して3時間23分という超ロングバージョン。 懐かしさで見てみると、これがなんとすっきり入ってくるじゃありませんか。 かけていたエピソードが補填されていることはともかく、ラストがかなりすっきりしています。 “千年王国”を受け入れるのか拒否するのか、ウイラード大尉の意思が伝わります。 前回と見比べて検証したわけではないので、詳しくは書けないのですが、新たなシーンを取り直したとは考えられないので、撮っていたあるシーンを付け加え、反対に混乱させたシーンを取り外したという作業が入っているはずです。 なんで初めからこれが出来なかったのかとも思いますが、コッポラが20余年悩んで出した結論だったのでしょう。 ベトナム戦争の傷口がすっかり塞がって、特別な背景でなくなったせいもあるでしょう。 これなら良いじゃない!と、やっとこの大作完成をみた気がします。 着手してから30年近くを要してやっと完成した名作です。 しかし、何度も言うように“ベトナム戦争”は終わったけど“イラク戦争”は続いています。 さらに“北朝鮮戦争”の陰が幕間から覗いています。 人類に学習機能があるんなら何とかしようよ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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