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カテゴリ:books, movies
Mitch Albom
『The Five People You Meet In Heaven』 Hyperion NewYork/YOHAN 【つづき】 エディは真っ白い真っ白い世界にいました。いつの間にか右手にはいつもの杖を握っていました。気が付くと自分の体も80代になっていました。エディはもうこの旅が終わりが近いことに気付きました。 真っ白な世界の中で断続的な音が聞こえていました。それは生前、エディが何度も悪夢を見た時に聞こえて来た音に似ていました。あの悪夢、戦争中のことを思い出した時の夢でした。その時に聞こえて来た音に似ていました。それはだんだんと大きくなり、ついには耳を塞ぐ程でした。「何だ?神様は一体何がしたいんだ?」叫んでいました。 音が止んでふと足下を見ると違う世界が拡がっていました。それは川でした。浅い川。そこに数え切れない子供達が遊んでいました。笑い、いたずらし、体を洗ったり。皆、褐色の肌をしていました。そこに10代に満たない沢山の子供達が遊んでいる光景でした。あの音は子供達がはしゃぐ声、笑い声と川の流れる音とがミックスされて反響して出来ている音の様でした。少なくともそんな気がしてきました。 川で遊ぶ子供達から離れて一人の女の子がエディを見ているのに気が付きました。黒髪にクリクリとした大きな目が可愛らしい女の子でした。エディと目が合うとオイデオイデをしました。「え?」という心を読まれた様に『そう、おじいさんよ』と言う様にオイデオイデをしていました。エディは呼ばれるまま川の方へ進んで行きました。 可愛らしいアジア系の女の子でした。歳の頃なら5,6才。ピチピチした唇に真っ白な歯がニカニカッと輝き、エディが近づくと体全体で嬉しさを表すように、ピョンピョンと飛び跳ねてペタペタとエディに触りました。そしてゲームが始まる様に自分の胸を刺して「タラ」と言いました。「タラ、だね」エディは繰り返しました。 女の子はピョンピョンと喜んで次には着ている服のアップリケを指差して言いました。「バロ」。「バロ」エディは繰り返します。次には履いているズボンを指差して「サヤ」「サヤ」エディは言葉を習う生徒の様に女の子と言葉遊びを続けました。 女の子は川辺にある竹のマットに座る様にしぐさをしました。エディが周囲を見ると他の子供達はエディに気が付いていないかの様でした。一人の子供がもう一人を川底の石で洗う様にしていました。 「アラッテルノ」タラがエディの心を見抜いた様に応えました。「イナガスルヨウニ」「イナ?」「マミ-」 そのうちにタラはエディの胸ポケットにある犬の形のパイプクリーナーを指差しました。「これ?これはパイプクリーナーだよ。こうやって使うのさ。ホラ」それをタラに渡すとまたニッコリと笑うのでした。 「犬好きかい?」 「オマエ、ワタシ、モヤシタ」 「何だって?」エディは笑顔で聞き返しました。 「オマエ、ワタシ、モヤシタ、ヒ、ツケタ」 「え?」 「イナ、イッタ、ニパニ、カクレロ」 「隠れる?って何から隠れるって?」エディは聞き間違えでないのに気付くと声が低くなりました。 「サンダロン、カラ」 「サンダロン?」 「ソルジャー」 突然エディの頭にイメージがよみがえって来ました。ソルジャー、兵隊、爆発、一緒に捕まった仲間、中隊長、それにあの、火炎放射器! 「タラ...」 「タラ」ニッコリ笑いました。「オマエ、タラ、モヤシタ」 「じゃ、じゃあ、あのフィリピンの...あの人影...燃やしたヤシの小屋の...」 「ニパ」 「イナイッタ、ニパニ、カクレル、セーフ、タライナヲマッタ、オオキナオト、オオキナヒ、オマエ、タラ、モヤシタ」肩をすくめると言いました「ニパ、ゼンゼン、セーフジャ、ナイ」 エディは震えて来たのを感じました。女の子を見ると無理に笑おうとしました。するとタラはニッコリと笑顔を返したのでした。もうダメでした。エディは頭を抱えて崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまいました。 「ああああああああああ!神様っ!俺は何てことをしてしまったんだっ!!!」 【つづく】 エディは涙が枯れる程泣きました。「許して下さい。神様お許し下さい。」を呟き続けました。やがて涙と怒りが収まってくると、肩をトントンと叩くタラがいました。 「オマエ、タラ、アラウ」 というと川底の石を一つ手渡しました。「洗う?」するとタラが服を脱ぎ始めました。服の下の体はひどい焼けただれになっていました。背中は真っ黒でした。手足も。気が付くと顔も焼けていました。可愛らしい唇はたれさがり目は片方しか開かず、額も焼けただれ髪の毛も焦げてほとんどなくなっていました。エディはまた涙が溢れて来ました。 「オマエ、タラ、アラウ。コウシテ」 タラが腕に石をこすりつけると火傷の跡が少し薄くなった様でした。エディは石を受け取ると同じようにこすりました。すると火傷の跡はなくなり元の肌に戻るのでした。それからはエディは必死にタラの体を擦りました。痛くないようにしかし念入りに。川の水につけながらエディは火傷の跡を一生懸命に擦りました。 最後に頭を擦っている間、タラは気持ち良さそうにエディにもたれて昼寝をしている様でした。すべてが元通り最初に会った時の姿に戻るとタラは目覚めました。そしてエディに片手を拡げて言いました。 「タラ、5」 「うんうん、タラ、5、才かい?」 するとタラは首を振ってエディに手を押し付けました。暖かさがエディに伝わると共にエディは気が付きました。『タラが5番目の人なんだ』涙が溢れて来ました。 「ナンデカナシイ?」 「悲しい?」 するとタラは下を指差しました。「アソコデ」 エディは告白しました。ブルーマンにも中隊長にもルビーにも、そしてマーガレットにも言ったことでした。 「ワシは生きてる時に何も役立つことをしなかったからです。誰もワシを必要としてなかった。むなしい老人だった。無駄な存在、無意味な人生を送ってしまった。」 「イミ、ナク、ナイ。アソコニ、イテ、ヨカッタ」 「あそこって?ルビーの遊園地?」 タラはうなずきました。「乗り物メンテナンス係?それがワシが生きてた意味?」 「コドモ。オマエ、コドモ、マモッタ、ズット。ジコ、オキナイヨウ。タラニモ、ヨクシタ。」 ニッコリ笑うとエディの制服の胸の名札をなぞって言いました。 「エディ・メンテナンス」 それを聞くと、エディは自分の体が楽になって行きました。まるで川に溶けて行く様な感じでした。悩みも悲しみもなくなって行きました。薄れる記憶の中でエディは聞きました。 「タラ?あの遊園地でワシが助けようとした女の子。あの子。助かったのかな?ワシはうまく引っ張りだせたのかな?」 「エディ、ヒッパリダサナイ。」タラは言いました。 何だかガッカリしました。最後にこれか...。「エディ、ギャクニ、オシタ」「?」 「エディ、オンナノコ、オシダシタ、オンナノコ、ブジ」 「でも、ワシはあの時、胸に女の子の手を感じたよ。押し出したら手は触れないよ。」 「アレ、タラ。エディ、オチナイヨウ、テンゴクニ、コレルヨウ、オシタ」 エディは心が休まるのを感じました。彼はもう姿がなくなっていました。エディの気持ちだけが懐かしの遊園地の上を流れて行きました。タラの手もいつの間にか感じなくなっていました。遊園地には子供達が楽しそうでした。そして良くマーガレットと行ったシンプルなブランコの前に来ました。マーガレットが笑顔で待っていました。本当に心が休まるのを感じた時、神様からの言葉を感じることが出来ました。 「...HOME...」 【エピローグ】 遊園地はエディの死から3日間閉鎖されました。事故を起こした乗り物は翌年には『恐怖のデビルドロップ』という名で再開され、若者の度胸試しナンバーワンの乗り物として大人気。オーナーは密かに喜びました。遊園地はまた以前の人気を取り戻し、子供達の笑い声が絶えなくなりました。 入口は改造され5列に並ぶようになりました。まるでどこかと同じ様に、いつも5人が並んでいる様になりました。 あのエディが助けた女の子が大人になって、恋をして、結婚して、子供を授かって、そして年老いて命を失った時、天国で会う5人の中には、遊園地のメンテナンス係のおじいさんが出て来るに違いありません。そして一つは決して一つだけではなく、皆つながっているのだと言う話を伝えるのです。 【おわり】 ★南ハイランダー感想 普段バカなことばっかり書いてるのでついついやってしまいました。拙いあらすじを読んで頂き感謝に耐えません。告白すると、両親が離婚している私にとって3人目の父の話はとても辛かったです。思い入れが強すぎてついつい長くなってしまいました。実は読みながら何回も泣きました。私も鬼じゃあないのね(無理笑)。 もちろんあの優しいブルーマンも頼りになる中隊長も良かった。何よりもマーガレットの話はとても素敵でした。短くなったのは反動ではなく、実は本もそのボリュームだったと思います。タラの話も短かったです。 で、白状しますと実はこの話を続けている間に、NHK出版から11/20『天国の5人』という題名で翻訳が出ました(爆)。こちらご参考!あの~私のテキトーな訳がばれても黙っていてくださいね(爆爆)。私も早く川底から石をひろって二日酔いとか怠慢仕事とかで汚れ切った心を洗いたいです。あ、見つけたらあなたにも一つ送りますね(爆)。 では。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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