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2005.10.31
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カテゴリ:五木寛之
小説『変奏曲』

村上春樹は、彼自身の青春である1968~70年を回
想することで現在の自分の位置を確認する作品を発表し
てきましたが、五木寛之は、
『内灘夫人』(1968~69)、
『デラシネの旗』(1968)、
『変奏曲』(1971~72)の3部作で、
彼自身が激しい政治の季節の渦にまきこまれた大学生時
代(1952~1957)を、再び訪れた政治の季節
(1968~1970)のなかで、ふりかえるという形
式の作品を発表しています。

『内灘夫人』と『デラシネの旗』が学生運動の真っ只中
に執筆されたためか、熱気を帯びているのに対して、
『変奏曲』は、学生運動の挫折後に執筆されたためか、
挫折感がただよっています。作者自身も、『変奏曲』の
あとがきで、『内灘夫人』と『デラシネの旗』は陽画
(ポジ)、『変奏曲』は前2作品のヴァリエイションで
陰画(ネガ)と説明しています。

小説『変奏曲』は1976年、中平康監督によりATG
初の海外オール・ロケで映画化されました。私は、この
映画に強く惹かれ続けてきました。この映画の何が私を
引きつけるのか、私は知りたいのです。

映画は、銃声の響きから始まります。画面が写し出され
ると、森のなかに4人の外国人が立ち、そのうちのひと
りが構えた銃が火をふくと、木の幹を背に彼らと対して
いた黒髪の男がくずれおちます。走り去るクルマの音。

画面は切り変わり、フラメンコギターとタンバリンの音
とともに、1972年のパリのカフェの店先でフラメン
コを踊るジプシーを映し出します。ジプシーの子供が投
げ銭をもらいに各テーブルをまわり、物思いにふけって
いる日本人の女性に「マダ~ム」と声をかけると、彼女
は「ノン」と応えます。最初は強く、2度めは弱い口調
で。それから、まわりの目が気になり、投げ銭を入れる
皿に5フラン紙幣を入れようとすると、今度は、子供が
「ノン」と拒絶。

<私はもっと早くノンと言うべきだったのだ。5年……
いや10年……もっと以前に……>

彼女は、薄い白のブラウスと黒のスカートを着て、左脇
に黒のバッグを抱えて、パリの街を歩きます。階段で、
左の靴の踵がとれると、近くのバーに寄り、コニャック
を頼みます。煙草を吸いながら、ふとカウンターを眺め
ると、黒髪の男が酒を飲んでいます。やがて、その男は
決意したように彼女のテーブルにやってきます。
「しばらく」
彼女は、バーテンダーに「アンコール」と空のグラスを
見せ、「3杯めよ」と男に言います。
「僕はワインだ。かなり飲めるようになった」
「あなた、昔は飲めなかったわね。……目を悪くしたの
。そんなサングラスをかけて。……覚えていたのね」
「すぐわかった。迷っていたんだ。声をかけようか、ど
うしようかって」
「私は、なかなかわからなかったわ」
彼女は、勘定を払おうとする男を制します。
「私が払うわ。私はいまでも、おカネに不自由していな
いの。あなたは?」
「カネはないな、いまも。下腹に脂肪がついたり、歯が
だめになったり、通風が出たりするようになったけど、
あいかわらずカネには不自由しているよ」
男は、彼女が差し出した紙幣と、バーテンダーがもって
きたおつりをポケットのなかにしまい、店を出ます。

ふたりは、腕を組んで街を歩きます。
「主人は先週、プラハに立ったの。私、結婚してるのよ
。彼と結婚してから、もう13年近くたつわ。あなたが
いなくなったのは昭和30年の秋よ。だから17年。時
間って、本当に早くたつものなのね」

日が落ちて、雨が降りはじめ、男は、彼女を「組織」が
借りている部屋へ連れていきます。シャワーを使いなが
ら、自分のことを話しはじめる彼女。
「あたしたち、高輪のちょっとした家に住んでいるの。
主人は、銀座で外国製品を扱う大きなお店をやっている
の。一流銘柄の高級品ばかりを信じられないような値段
で売る店よ」
「きみはその人を…………やめよう」
「愛しているわよ。ある意味でね。自分の経済力や知識
や、そんないろんなものにゆったりした自信を持った人
なの。あたしがいま生きているのは彼と出会ったからだ
わ。あたしね、あなたがいなくなってから二度も死にか
けたの。もちろん自殺よ。家を飛び出して銀座のバーの
クロークに勤めていたとき、彼と知り合ったの。あの人
が私を救ってくれたんだわ」

彼女がベッドに入ると、男はシャワーをあびながら「組
織」について説明しはじめます。
「ペー・ジェー・ペー・エムというんだ。インターナシ
ョナルな運動体で、ブラック・パンサーや、パレスチナ
解放戦線や、南チロル独立派、ケベック自由同盟、アル
ジェのグループとも連絡がある。日本人のメンバーのな
かの何人かは、ペー・ジェー・ペー・エムの指揮下でギ
ニアで実地の戦闘訓練を受けている」
「あなたが大村湾から船に乗ったとき、もうすでに組織
とは連絡がとれていたのね。あたし、あなたのそばにい
ながら、なんにも知らなかった。それでどこに渡ったの
?」
「中国だ。そこに2年いて、インドから中近東へ渡った
。そしてしばらくしてモスクワへ行き、やがてプラハに
移ったんだ。プラハではカレル大学にいた。パリへは
68年の五月革命の前に来た」
「あたしには遠い世界の話みたいにしか聞こえないけど
……。でも、本当のことって、かえってそんなふうに感
じられるものなのかもしれない」
「本当だよ」
男は、明かりを消して、ベッドに入ります。

激しい雨が降り、雷鳴がとどろきます。
「こんなふうにして出会うとは思ってもみなかったわ。
あなたは死んだ人だと思いこもうと、つとめてきたのよ
。17年ものあいだ」
「ぼくもそのつもりだった。きみにとって、すでに存在
しない人間として生きていくつもりだった。連絡しよう
と思えばできたのに、それをしなかったのは、そう考え
たからさ」
「なぜ?」
「きみとぼくとは別な人間だと思ったから」
「どういう意味? ……あなたは革命とか、人民のため
とか、そんなことに献身することができても、あたしは
それができない種類の人間だと思ったわけ?」
「ぼくは人間や世の中を憎悪することができた。だが、
きみをその生き方の道連れにするわけにはいかないと思
ったこともある」
「そう」
「政治や革命運動の現実は、革命そのものの理想とはち
がう」

それから男は、2、3年前から自分が不能になったこと
を彼女に告白します。
「滑稽だろうが、本当のことだ。この街へ来てから、ず
っと、ぼくは1日10フランで暮らしてきた。ピガール
でアラブの連中と連絡中、あやうく得体のしれない車に
ひき殺されそうになったこともある。四六時中、ずっと
緊張のしっぱなしでね。疲れた……。僕は疲れたんだ」
彼女は、男の肩を抱き寄せて、つぶやきます。
「この街を離れましょう、ふたりだけで。あたし、一週
間、ずっと、あなたと過ごすわ。……だまって。わかっ
てるわ。でも、しばらくの間、忘れるの。なにもかも忘
れるの」
男は彼女と口づけを交わし、ふたたび組織のことを考え
た後、一緒に旅に出ることを決意します。





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Last updated  2019.05.16 02:46:37
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