天蚕(てんさん)とは、みどりの繭をつくるヤママユガのこと。
初めてそのことを聞いたのは、去年の夏か秋、友人の貴代美ちゃんと初めて話したときだった。貴代美ちゃんが一個の繭を拾ったことをきっかけに、天蚕飼育してることをきいたことだった。
その後、八尾の井野下さんというおじさんが、天蚕飼育してること、ファミリーパーク(動物園)のなかでも天蚕飼育してることなどを聞いた。
ことしの3月ごろ、とあるきっかけで、井野下さんちにおじゃまして、初めて天蚕の繭と糸を見せてもらった。
天蚕の繭はほんとうに緑です。
そして、その繭からとれる天然の緑の絹糸。この糸を、東京の帯締め専門店「道元」に納めているそうです。
このときは、くゆら織りという独自の織物を作っている高須さんが井野下さんを訪ねるのに同席したのでした。高須さんは、横糸にさまざまな素材を織りこみ作品を作ってるかたで、八尾に工房をもってることから、八尾らしい素材が欲しいと井野下さんに相談にいったのでした。
そしたら、緑の繭の外側にぼわぼわした、糸にはできないような部分があって、捨てるに捨てられずにいるというものを、高須さんにあげていた。
これがぼわぼわ。
井野下さんちに、お邪魔したときに、うぐいすもちを出して下さった。うぐいすもちと、まゆがそっくりで可笑しかったです^^
さて、その後、5月ごろから7月にかけて、卵から幼虫へ、幼虫から繭へと成長していきました。井野下さんちやファミリーパークでは、クヌギの木で天蚕飼育。貴代美ちゃんは自宅でコウリュウという木で育てていましたよ。ふつうの蚕は、桑の葉しか食べませんが、天蚕はクヌギほかです。
これはけっこう大きくなって、もうすぐ繭になる幼虫。ふつうのカイコの幼虫は白いし、あまり気持ちのいいものではないのですが、天蚕の幼虫は、緑だし、ぷくぷくしてるし、愛くるしいっんですね^^
これはもう、繭になっちゃったもの。自分で糸を吐いて、繭になっちゃいます。
保護色です。人が近づくと、ぴたっと動きを止め、葉っぱと一体化します。
こういう虫のちからで、シルクができるんですね~なんだか不思議ですね!そしてちょっと申し訳ないような気もしますけど。
八尾というのは、「おわら風の盆」で有名なところで、毎年9月1,2,3日のおわらのときにはたくさんの観光客が来るところです。でもふだんは静かな町です。八尾は、かつて養蚕で栄えた町で、養蚕のなごりがいっぱいあるんですよ。井野下さんは、八尾の蚕業試験場にずっと勤めていたんですね。今は、その養蚕の歴史を残そうと、桑を植えたりいろんな活動をしています。
こうして取れた繭ですが、そのうち「ガ」(ヤママユガ)が生まれるまで育てて、そのガを交配し、新しい卵を産ませるものと、糸にするために中のガを殺してしまうものとに分けます。
中にガが生きているままでは、繭から糸が取れないので。そこで、長野の農業生産資源研究所にいって、そこの乾燥機で乾燥させてもらう(115℃に熱して中のガを殺す)という、井野下さんに、きのう同行させてもらったわけです。
1800個の繭とファミリーパークの繭と、立山でやはり天蚕をやってる人の繭と、八尾の子どもたちの育てた普通のカイコの繭です。
研究所では、製糸の研究をしていて、様々な機械がありました。以下は、天蚕ではなく、ふつうのカイコでシルクを作っている研究所の様子です。
繭を煮たあと、その繭の一つ一つから糸を繰り出す繰糸機と井野下さん。
ナイロンなど合成繊維とシルクをあわせてハイブリッドシルクを作るための機械。
昭和30年代まで使っていたという機械。
研究所には450種類のカイコの品種(原種)をもっていて、これをかけ合わせて新しい品種のシルクができるカイコを作り出しています。中国など海外の安いシルクに負けないよう、高機能商品を開発したり、シルクの新しい用途開発をしているそうです。
たとえば、電気のかさとか、人工血管だとか。
かつて日本を支えた繊維産業。合成繊維は東レとか旭化成とかが、様々な繊維を開発していますね。一方で、天然繊維のシルクも、新しい道を探っていると言うところでしょうか。生き物が作り出す繊維というのが、やはり不思議な感じです!