テーマ:本のある暮らし(3284)
カテゴリ:本のこと映画のこと
ゴールデン・ウィーク中に、村上春樹・編訳の『バースディ・ストーリーズ』を読みました。
まだ半分しか読んでいませんが、ラッセル・バンクスの「ムーア人」が一番良かったです。 ちょっと泣けてくるほど。 ラストの主人公の思いに共感できて、ぐっときてしまいました。 この短編はウォーレン・ロウという、50がらみの男が主人公です。 フリーメイソンのセレモニーでした、顔の黒いメークアップをコールドクリームがなくて落としきれないまま、仲間とバーに行くと、80歳ぐらいの老女のバースディ・パーティーに出くわします。 ウォーレンはその老女に見覚えがありますが、思い出せません。 バーを出ようとすると、老女に袖をつかまれ、名前を呼ばれます。 その瞬間、彼はすべてを思い出します。 老女は、彼が21歳のとき、つきあったことのある、当時は今の自分と同じぐらいの年齢の人妻でした。 そして、二人は昔話をし、ちょっとした質問をしあいます。 それがこのお話の肝心なところですね。 そのあと、二人は老女を送っていくため、 粉雪の舞う通りにでて、ウォーレンの車にのります。 老女は彼の顔に残っている黒いメークアップを見て、 「まだ演劇をやっているの。 演目はなに?」 と聞きます。 彼はフリーメーソンの儀式だともいえず、 「オセロ」だと答えます。 シェークスピアの「オセロ」は、 ムーア人のオセロが旗手イアーゴーの奸計にかかり、 自分の宝ともいえる美しい妻のデズデモーナを猜疑心から殺し、 真相を知って悔恨に耐えられず自刃する、というストーリーでしたよね。 過去はもう取り戻すことのできないもの。 輝かしいときは過ぎてしまった。。 主人公の後悔には、このオセロと同じ無念さがあって、 すごく切なくなってしまいました。 ひさびさに面白い短編を読んだって感じです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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