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しゅう206

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Mar 24, 2006
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カテゴリ:女性と 仕事

大阪南部に 向かうため、
一年ぶりに、大阪環状線に 乗った。

ホームに入ってきた電車は、
あいかわらず、くすんだ 橙色で、
どことなく、古びている。


大阪駅を 出た 内回りの電車は、
うす汚れた 中央郵便局の脇を 抜けて行く。

夕刻の 陽射しは、少し 陰ってきて、
春だと言うのに、そっけない 面持ちだ。

---

週末の気怠い 眠気に、憂鬱に なりかけていると、
隣に座った女性が、話しかけてきた。

目をやると、白いカーディガンの 老婆が、
今の駅は 大阪だったか? と 聞いている。


「そうですよ」と、ぶっきらぼうに答えると、
ブツブツ呟きながら、帳面に、何か 書きつけている。

その行動に、ちょっと おかしな空気を感じて、
これ以上、話しかけられないようにと、私は 目を閉じた。

---

次の福島に近づくと、老婆の ソワソワする雰囲気が、
目を閉じていても、伝わってきた。

列車がホームに入ると、駅名表示を必死で確認し、
さっきと同じように、帳面を見ながら、呟いている。


席を替わったほうが... などと考えていると、
「今の駅は、福島やろか??」と、また 問いかけられた。

逃げ遅れた私は、今度も 質問に答えることになり、
老婆の帳面には、書き付けが、ひとつ増えた。

---

二度の会話に 勇気を得たのか、夕暮れの車内で、
老婆は、さらに 話しかけてきた。

「野田かいな。 野田阪神と、くっついてるんかな。」
「大阪も、高いビルが、増えたねえ。」

「今日は 25日やね。 給料日やろか。」
「あれまあ、給料袋のぞいてはるわ。 おもしろいねえ。」

「あのタンクは、大阪ガスのやね。 爆発したら、恐いね。」
「もう大正やな。 ここは 工業地帯やね。 海は 見えますか。」


老婆の視点で 展開される車内・車窓の風景は、
独特の色へと 変わりながら、私を 巻き込んでゆく。

---

老婆の会話が、一方的に 続いている間に、
手元の帳面には、駅名が、どんどん 追加される。

不思議に思った私は、恐る恐る、質問してみた。
「なんで、駅の名前を 書いてるんですか??」


突拍子もないことを 言われるかも?と思っていると、
案外、まともな答えが、返ってきた。

「娘 時分、大阪に いてましてん。」
「ほれで、懐かしゅうて、書いてますねん。」

その後も、おばあちゃんの話は、弾み 続けた。

---

「ここらには、コウショウ もあって、働く人の行列が、すごかった。」
「(私)コウショウ と言うと?」
「大阪砲兵工廠。 鉄砲やら、大砲やら、造ってたとこや。」
「砲兵工廠に勤めてる言うたら、ちょっとしたもんやった。」

「(私)おばあちゃんも、工廠に勤めてはったんですか。」
「いや、私らは、フツーの民間工場やった。」

「(私)せやけど、工廠言うたら、空襲もひどかったでしょう。」
「あの頃は、みんなルーズで、自分とこだけは
 大丈夫やと思っとったんや。」

「私の兄も、南方で亡くなりましてなあ。」
「この人には、けえへんやろ..言うてた人にも、
 (召集令状)が 来たんや。」
「今日は、兄の墓参りやったんや。」

「(私)そうですか。。すると、おばあちゃんは、おいくつで?」
「ナンボに見える? 怒らへんし、兄ちゃん、好きに言うてみ。」
「(私)七十おいくつか、ですか??」
「(胸を張って)今年で、八十二。 若いやろ。」


なんとなく、計算が合わないような 気がしたし、
後で調べると、砲兵工廠は、大正ではなく、森ノ宮にあったようだ。

ひょっとしたら、おばあちゃんは、
ちょっと ボケていたのかも...という気が する。

それでも、環状線の おばあちゃんは、
週末の気怠さを、しっかり吸い取る力を持っていた。

---

大阪南部へ向かう 私鉄に 乗り換えるため、
私は、戎さんの近くの駅で、電車を降りた。

「お気をつけて」と、おばあちゃんに 声をかけると、
残念そうに「おおきに」と呟いていた。

私は、その おばあちゃんが、
内回りの環状線で、
毎日、巡っているような気がした。

---

その日、ちょっとしたパーティに出た 私は、
抽選で 当たり、高価なゲーム機 をもらった。


思いがけない おみやげを抱えた 帰り道、
私は、ほろ酔い気分で、いい気持ちだった。

この先、何十年も経ったとき、こんな瞬間を、
私は、気持ちよく、思い出すことが できるだろうか。


環状線の窓から、大正駅のホームが見えた時、
おばあちゃんに もう一度 会って、聞いてみたくなった。







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Last updated  Mar 27, 2006 06:29:48 AM
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