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カテゴリ:演劇
■その日(3月20日)の新聞を見て放送があることを知った。危うく見逃すところだった。それだけ事前の情報を疎かにしていたということは、それだけ期待もしていなかったということになる。
■シアター・クリエこけら落としの舞台。3時間を優に超える長尺だが、高額チケットを購入してこの新しい劇場に足を運んだ人たちにとってはまさに退屈を知らぬ芝居に見えたのではないだろうか。なんせ、観客参加型ヴェニスの商人付きだったのだから。 ■三谷幸喜お得意のバックステージものという分類で良いだろう。かつての傑作「ショー・マスト・ゴー・オン」のように、ひとつの舞台が生み出される陰で、様々な問題やら困難が起こり、それをなんとか乗り越えて芝居を見せ終わるまでを描くというもの。 ■前作「コンフィデントー絆ー」は三谷作品にしては珍しく喜劇色をある程度抑え込んだ芸術家の苦悩を表現した新境地だった。それと同じ年に発表された今作はそれとは正反対のドタバタ喜劇。作品の幅がこれだけ大きいということは作者に対する誉め言葉であると言っても良いだろう。 ■例によって出たがり作者の挨拶かと思ったら、舞台に登場したのは堺正章。前口上のあと、無声映画よろしく、早変わりで登場する演者たちが見せるのは即席川上音二郎物語。マチャアキ弁士の熱の入った演説に合わせてスピーディーに展開されていく役者総出のイントロダクションでこの人物のだいたいのプロフィール紹介が終了。ふーん、百年前にこんな規格外な日本人が本当にいたんだ。 ■前作が役者そのものではなく、彼らが演じる役柄を見せる芝居(生瀬のゴッホは素晴らしかった)だったのに対し、今回の喜劇は役者そのものの魅力を見せる芝居。ただし座長役のユースケ・サンタマリアはその行き当たりばったりの性格が川上音二郎という人物のイメージにほど近かったための起用。なんと彼のセリフが全部入ったのは公演も中盤にさしかかっての頃だったという。 ■逆に三谷座常連の役者たちの身体的能力の高さがひときわ目立つ芝居でもあった。阿南健治の身の軽さ、今井朋彦の立ち姿の美しさ、浅野和之の女形芝居、小林隆の風格すら漂うボケ芝居、戸田恵子の声の強さ、眼の強さ、瀬戸カトリーヌのコメディエンヌぶり、そして後半登場する小原雅人のすっと伸びた背筋を見て、思わず『加納君お久しぶりです』って心の中で言ってみた。(その他、常連ではないが新納慎也君の好青年ぶりが心地良かった) ■嬉しかったのは舞台で見る堺雅人。役柄としては一座の脚本担当。その滑舌の良さは今井朋彦と共に群を抜いていた。終盤、劇中劇「ヴェニスの商人」でなぜか浅葱色の羽織を着て黒衣になっていたのがチャーミング。チャーミングといえば一場面だけ、ちょんまげ姿の今井さんも客席から大いに受けていた。こういうことはこれまでの三谷芝居では御法度だったわけだが、今回はなんでもありだ。 ■最も印象に残ったのは今回も堀内敬子。三谷作品は「12人」以来の連続出場になるはずだが、前作の酒場のシンガーからうってかわって今回は超絶スピードでまくし立てる津軽弁女。歌の場面は全くないが、その声量と得体の知れない存在感が常盤貴子以上に場面をさらう。金太郎の着ぐるみがあんなに似合う人もあまりいないと思う。 ■と、まあ役者さんのことばかり書いて、物語そのものについては大いにないがしろだが、書きたいことがむしろその事だから良いではないか。そもそも大衆演劇というものは役者を見に行く芝居だったはず。少しでも長く彼や彼女の姿を拝むことができれば観客は満足して帰っていったわけだ。三谷の腕からすればあと30分は縮めることができた芝居、あえてそれをせずにこれだけ長い尺にしたのは彼なりの演劇に対する原点回帰なんだと思う。ただ次にテレビでそれをやる時には短縮バージョンを検討して欲しいなんて思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008/03/21 10:55:54 PM
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