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カテゴリ:読書
■待望の井上夢人の長編。「クリスマスの4人」が2001年だったから9年ぶりか。その間、連作集「The Team」もあったけど、21世紀に入ってからの井上作品にはそれまでの切れ味というか、わくわくさせてくれるような話の運びがいまひとつ足りない。
■岡嶋二人時代からのファンとしては独立初期の「ダレカガナカニイル」「プラスティック」「パワーオフ」などのSF風味ありーの、どんでん返しありーの、の作風が非常に懐かしく、新作が出るたびにあのテイストをもう一度という期待を込めて買ってしまうのだ。 ■今作「魔法使いの弟子たち」は500頁を越えるかなりのボリューム。ただこの人の書く小説は読んでいて興が乗ってしまうと、その厚さなど忘れてしまうくらい物語に没入できる。特に交わされるセリフの読みやすさがスピード感を倍加させるのだと思う。(ちなみに「もつれっぱなし」という氏の短編集は全編会話だけで構成されている。) ■あるウィルスに感染した3人が得体のしれない後遺症を発症してしまうのだけど、それが人知を越えた超能力で、空は飛ぶは、年齢は遡るは、過去と未来を透視できるは、ってほとんどやり放題。最初はささやかな嘘話から始まった物語も終盤になると荒唐無稽。もう誰にも止められないような世界の終わりのような展開に。 ■なまじ中途半端にニヤリとさせられるような読後感よりもこんなにぶっ飛んだ奇想天外なホラ話の方がいっそ痛快かも。もはやミステリー小説というよりは劇画のノベライズかよって感じで脳内想像力は彼らの後遺症並みにフル稼働だった。 ■個人的にこの作者の作品で忘れられないのが「パワーオフ」。そこで出てきた「おきのどくさまウィルス」というコンピュータウィルスのネーミングが可愛らしくてすごく好きだった。まだノートン登場以前の話だったな。今回はそのウィルスもさらにパワーアップしてドラゴンと化した。そのおどろおどろしさとバカバカしさはまるで三木聡監督の「インスタント沼」のようでもあったのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010/04/19 09:35:57 PM
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