高知に自然史博物館を

　クルマの話である．

　アクセルはクルマを加速させる．ブレーキは減速させる．この2つのペダルが隣合わせに並んでいて，どちらも右足で踏むことで機能する．正反対の機能であるから，踏み間違えると大変だ．実際そういう事故が多発している．
　先日の「クローズアップ現代」は，このことを取り上げていた．メーカー側は，踏み間違えるのは運転技術の問題だとしている．それではダメで，やはり踏み間違えないように，ペダルの配置等に何らかの改善が必要だ，というのが番組の趣旨らしい．
　クルマの操縦系の仕様は国際的に共通性が高い．あまりに大胆な仕様変更は，却って混乱を招く．改善が不要という趣旨ではないが，まずは運転技術をチェックしてはどうかと思う．

　アクセルの機能は「加速」だけではない．それはクルマの安定性と大いに関係がある．アクセルを踏むとクルマは加速傾向となり，前輪が浮いてハンドルが効きにくくなる．アクセルを緩めるとクルマは減速傾向となり，車重はより前輪にかかる．するとハンドルが効きやすくなるとともに，クルマは不安定になる．カーブではハンドル操作とアクセル操作がタイミング良く協調せねばならない．タイミングを誤ると，スピンや横転などにつながることもある．
　路面の状態が悪いときには，アクセル操作には一層の注意が必要となる．昔の F1ドライバーでアイルトン・セナという選手がいた．ホンダのエンジンを搭載したクルマで勝利を重ねた．雨天のレースには特に強くて，「雨のセナ」とまで呼ばれた．セナ選手のアクセル操作は独特で，カーブでのエンジン音が，他のドライバーとまるで違って聞こえた．
　もちろん，われわれが運転するクルマはレーシングカーではない．それに今のクルマは非常に良くできていて，制限速度で走行していればスピンや横転など考えられない．しかし，だからクルマの「力学」について知る必要はないかというと，それは違うと思う．鉄のカタマリを走らせるという，常識的に言って大変な危険行為をやっているわけだから，その力学についてあまりに無知なのは困る．

　ところで，
　慣れたドライバーは膝や足首の関節をあまり使わないで，ほとんど足の指だけでアクセルを操作するという．じつはアクセルペダルとは，そこまで微妙なものである．足指の裏は敏感である．指をうまく使えなくても，足裏全体ではなく，意識して足指をペダルに置くことで，アクセルの感触を察知できる．
　いっぽうブレーキペダルの方は，使われ方がまるで違う．足の裏でドスンと踏む．指など関係ない．粗雑な操作が許容されるペダルである．

　昔のタイプライター教則本には，左の小指を「 A 」に，右の小指を「 ; 」に，常に軽く接触させておくようにと書いてあった．これを touch method というそうだ．小指の基本ポジションが決まっている限り，ミスタイプは最小限に抑えられる．
　同様に，アクセル操作の微妙さを考えるなら，通常の運転ではほとんど常時，足を（できれば足指を）アクセルの上に置いておくべきだろう．また，そうしている限り，アクセルをブレーキと踏み間違えることは通常考えられない．長い下り坂などでは油断して足をアクセルから離してしまう可能性はある．しかし，とにかく可能な限り，足指で常にアクセルにタッチしておくよう習慣づけることは，シートベルトと同様，「運転技術」以前の，運転の知識ないし「心がけ」の問題である．

　クルマのマイナーな改善案として，アクセルとブレーキとで踏んだときの感触ができるだけ違うように工夫すること位はできると思う．しかし右足の基本ポジションとして，常にアクセルに足指を接触させておくという touch method を，まず教習所などでしっかり教えるようにしてはどうだろうか．