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福島県は,なぜ住民にヨウ素剤を配布しなかったのか? 朝日新聞の記事「プロメテウスの罠」から,経緯を追ってみよう.
福島県立医大では,職員やその家族,福島県の住民にも,ヨウ素剤を配付しようという動きが強まっていた.しかし,それを止めた要因が2つあった.1つは国立(独立法人)放射線医学総合研究所(放医研)から「ヨウ素剤を使うな」という指示があったこと.もう1つは,福島県立医大から請われて福島入りした山下俊一氏が,ヨウ素剤の使用に反対したこと. 放医研からの指示は2011年3月14日に出されている.国や県の指示がない状態で飲ませるな,という趣旨だった.実際に国や県は指示を出さず,それでも飲ませた自治体は「勝手に飲ませた」と批判された.今年(2013年)6月の取材に対し放医研の明石真言氏は「いま思えば,飲ませればよかった」と言っている.「あのころは自衛隊へのヨウ素剤服用指示や,傷病者の受け入れなど対応すべきことが多くて...」(「プロメテウスの罠」2013.11.10の記事). 耳を疑うような理由だ.現場が自発的に動こうとしているのを差し止めた.その理由が,自分は忙しかったから? 「今から思えば」ヨウ素剤を飲ませれば良かった??? そして山下氏だ.福島入りした当日の講演で山下氏は,ヨウ素剤は不要であると述べた.福島の汚染状況はヨウ素剤を必要とするほどひどくないし,住民が放射性ヨウ素を取り込む確率も低い.そのうえヨウ素剤の服用マニュアルには適切でない箇所がある. この講演が3月18日.それでも現場の医師や薬剤師は,住民にヨウ素剤を飲ませる方法を検討していた.たとえば子供にはジュースに溶かして飲ませる等々.しかし3月19日,山下氏はこれにストップをかけた.このときの理由は,(1) 原子力安全委員会のマニュアルから逸脱する(つまり国や県からの指示がないので飲ませてはいけない),(2) 服用量を誤る危険があり,また副作用が出た場合に対応困難,(3) 飲み物と混ぜた場合に効果があるか不明,というものだった(「プロメテウスの罠」11月8日の記事). 放射能汚染はさほどひどくない.飲ませるほどの必要性はない.前日にはそう言っていた(上記).一夜明ければ,この主張が消えて,代りに (1) つまり「お上に従え」論が登場.(2) は前日と同じ趣旨でしょう(マニュアルの不適切).(3)は付け足し,こじつけ. 「プロメテウスの罠」11月9日の記事では,記者は山下氏に質問をくり返している.「福島に入ったときは情報がなかったんです」云々,と山下氏.いろいろ言っているけれど,支離滅裂と言ってよい.これ以上ここに書くのもスペースの無駄というもの. 私の意見も書いておこう. 「国や県から指示がないのに実施してはいけない」だとか,「副作用が出たらどうする?」だとかは,それなりに正しい判断である.もし山下氏が一介の役人であれば,である.役人は指示されないことを勝手にしてはいけないだろうし,あとで責任をとらされるような事はしないものだ.しかし人々が山下氏に求めたのは,そういう姿勢だったのだろうか? お役所の日常業務の話ではない.状況は非常時.そのために遠路はるばる招聘された専門家だ.最初は専門家らしい意見を述べた(ヨウ素剤不要論)が,翌日には一介のお役人並みのご意見に退化した.こういう当たり障りのない判断で通用するのなら専門家は不要だ.下世話な話だけれど,山下氏がこの役職で手にする報酬は,その程度の額なのだろうか. 常識的な役人業務ではなく,専門家の専門家たるゆえんを示して欲しかったと思う. お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 14, 2013 07:35:31 PM
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