前回まで書いていたセミナーで配った資料をのせます。
グローセスゲヴェックスやファインヘルプといった表記は、ふだんからドイツワインを買っている現在ドイツワインを主食?としている人にとっては常識の知識なのですが、そうでない人にとってはドイツワインが好きという人でもどういうものかわかっていない人が多いというのが実情です。
小売店やレストランの方でも説明できない人が多いと思います。というかこういうものの存在を知らない人もいると思います。
いまだに、カビネット、シュペートレーゼと等級が上がるごとに甘くなると説明する人やホームページの解説も多いですから。(甘口の場合はそのとおりなのですが、ワインの糖度ではなく収穫した葡萄の糖度の話なので実際のワインと甘さの比較ではありません。それに辛口トロッケン、中辛口ハルプトロッケン表記の場合は、葡萄の糖度が高いものから醸造されていれば甘くはなくてもカビネットやシュペートレーゼと名乗っているのです。これがわかりにくいので新しい表記ができてきています。)
ということで以下のものを読むとドイツワインの今の流れを理解していただけるのではと思います。ドイツワインに携わるものにとっては知っておいてほしい知識です。
トリアー在住の北嶋さんに事前にチェックしていただき添削していただいたので間違った情報は書いていないはずです。
添削してコメントなどを赤文字で書いた返信が来たのですが、本当に先生みたいでした。
資料として配ったものは色を変えていまして、そこに北嶋さんからの補足や会で議論になったことなどで知ってほしいことなどを付け加えておきます。
・グローセス・ゲヴェックス Grosses Gewächs
グローセスゲヴェクスのほうがドイツ語の読みとしては正しいみたいですが、インポーターによって両方が使われています。
ドイツワイン法ではなく、VDP(ドイツ優良ワイン生産者協会)が提唱する辛口ワインの新たな格付け。他国との競争力を高めるため上級辛口ワインのブランド化を目指し、フランスのグランクリュの考え方を根底に作られ2002年から施行されている(地域によってはもっと早くからラベルに記載されているところもある)。
ファルツのビュルクリン・ヴォルフがこの格付けの先駆けといわれています。
ラインガウも2002年以前のものにもエアステス・ゲヴェックスの表記とマークがラベルに載っている醸造所もあります。
以下の条件などをクリアしているもののみが名乗ることができる。
シュペートレーゼに相当する糖度以上の葡萄からの醸造
以前だったらシュペートレーゼ・トロッケン、アウスレーゼ・トロッケンと名乗っていたものがGG(グローセスゲヴェックス)に相当するということです。
指定する伝統的な特級畑
指定する葡萄品種(地域による異なる)
1haあたり50hl以下の収穫量の制限
手摘みによる収穫
収穫一年後の9月からの発売
最低販売価格は15ユーロ(醸造所の定価)
これは日本語の解説ではほとんど触れられていないことです。
この価格政策によりGGを名乗らないワインがあったり、いろいろな要因が生まれています。
現在のGGの販売価格の平均は20ユーロ前後だそうです。
ラインガウではエアステス・ゲヴェックスErstes Gewächsとなる。
モーゼルでは畑の格付けとしてErste Lageを用いられることもあり、Erste Lageのロゴをつけたファインヘルプ、甘口ワインをリリースしている醸造所もある。
だが一般的にグローセスゲヴェックスといえば上級の辛口ワインのことを指す。
これがわかりにくいと会でも言っている方が多かったです。ドイツ国外への販売の弊害にもなっているのではと。
上記のようにラインガウとモーゼルだけ少し違うというよう捉え方をすればすぐ理解できるのではと思います。
・VDP加盟醸造所の中にもその蔵元の最上級辛口ワインでもGGとしてリリースしていないところもある。
モーゼルでもその傾向が強かったそうですが、足並みが揃ってきて2009年産は多くの醸造所がGGをリリースしています。
それには理念、思想や価格などいろいろな理由が存在する。
やはり価格の影響によるところが多いみたいです。
そういったところや異なる畑の葡萄をブレンドしたもの、VDPに加盟していない醸造所には最上級のものに関わらず、Qualitätswein(QbA)としてリリースしているところも多い。
けっこうここをわかっていない人が多くて、QbAでも値段が高いものはグーツワインではなく上級なワインであることもある、という認識にあらためてください。
自らの意思でGGを名乗っていないところもあるし(セミナーで例として出したライツのはその系統です)、GGの指定畑とされていなくてGGをリリースしたくてもできない醸造所もあります。
このあたりがセミナーでも話題になりました。どの畑をGGに指定するかということです。このことで醸造所の間で問題になったのですが(もちろん自分の所有する畑は指定してほしいですから)最終的には100年前の優良畑を指定することになったみたいです。その後他にも追加で指定された畑もあると思います。僕の推測で確かな情報ではないですが。
また、Sや星などをつけて上級を表しているところもある。
例 Grauburgunder trocken S、Spätlese trocken***
ゴーミヨの醸造所ごとのワインのラインナップをみるとそれがよくわかります。
醸造所ごとに格付けの表記が違うことが一目でわかります。
・ファインヘルプ Feinherb
ハルプトロッケンと同程度のものにつけられている。ドイツワイン法としての規定ではない。
インポーターによっては半辛口と表現している。
ハルプトロッケンのように残糖基準が定められていないので幅広い造り方をすることができるが、かなり甘みもあるものから辛口に近いものまでファインヘルプといってもさまざまな味わいのものが存在するのが問題点でもある。
甘みを多く感じるものには野生酵母で自然に発酵が止まった残糖のことが多いです。
特に、モーゼル、ザールにこういうものが多いそうです。
セミナーで出したペーターラウアーのケルンもその類です。
以下は辛口ワインだけではなく甘口のワインにも使われている手法です。
・同じ等級の同じ畑名の中でいくつもの種類をリリースしている醸造所がある。
後述する葡萄の質の違いだけではなく、ひとつの畑の中でいくつかかの異なる土壌(地質)が存在する場合、一区画だけ特殊な条件で特性の違う葡萄ができる場合などに畑名の他に名前をつけて別でリリースしているところも多い。特に面積の大きい畑を所有している実力があり志の高い醸造所にこの傾向は強い。
古樹の葡萄から造られたことを意味するアルテレーベンAlte Reben表記と同じような使い方。
シーファーなどの土壌の名前をつけたり、Kranklayなどとその場所の特徴を名前にしたりしている。
・ゴールドカプセルなど
一つの畑の中で質の良い葡萄を選りすぐりわけて醸造し別リリースをするところも多い。
その場合同じ畑、同じ等級に星をつけたりキャップシールを金色にするゴールドカプセルという手法がとられている。
ゴールドカプセルはアウスレーゼ以上の高貴な甘口など上級なワインの中でさらに区別をするために使われることが多い。
モーゼルの甘口ワインにはゴールドカプセルのさらに上のLange Goldkapselをリリースしているところもある。アウスレーゼという一くくりの中にも様々な質のものができるためこういう手法が用いられている。
上に書いたように星をつけたりSとして区別しているところもある。
1979年まではFeine Auslese,Feineste Ausleseという表記があったのですがこれは消費者の誤解を招きわかりにくいと表記が禁止になりました。
でも区別をつける必要があるので上記のような区別のしかたを使っています。
・ オークションワイン
地域ごとに年に一回九月にVDP主催の競売会が開かれ、通常とは別の樽から造られるそこに出品する用のワインが存在する。基本的にこの競売会で落札をしないと入手することができなく本数も少ない貴重なワイン。
モーゼルでは甘口が中心だが他の地域では辛口ワインも多く出品される。
ひとつの樽からマグナムボトルなど大きいボトルに瓶詰めしたものだけを競売会用としている醸造所もある。
競売会で落札されたワインにはシールが貼られているので通常品との区別がつく。
アウスレーゼゴールドカプセルにも一般流通しているものと競売会用ワインを別にリリースしているところもあり、同じ畑のアウスレーゼでもひとつの年で5種類以上リリースしている醸造所もある。
VDPだけではなくベルンカステラーリングなどの個々の団体で独自に競売会を開いていて同じように別リリースでワインをだしているところもある。
僕が知っておいてほしいと思ったのは以上のようなことなので紙にまとめました。
ドイツワインに関わる人は、現在のドイツワインを正確に理解し、人に説明するためにも上記のようなことは知っていてほしいと思ったので記事にしました。
勝手に転載したり、保存してかまいませんのでおおいに活用していただければうれしいです。