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カテゴリ:翻訳

 JRの運転手が停車中にお絵かきロジックをやっていて問題になった。
勤務中にやるのはさておき、このお絵かきロジック、10年ほど前に流行ってすっかりすたれてしまったと思っていたら、どうもそうではないらしい。

 パズルを解いていくと、絵が現れるようになっている。パズルであるからには、それなりの手続きを踏まないと前に進めないが、おぼろげながら「正体」が見えてきたころに、どこかで間違っていることに気づかされる。複雑なものになると、なかなか最後まで完璧に仕上げるのはむずかしい。当然、途中で矛盾に気がつくが、後戻りはできない。仕方なく、ごまかしながら続けても、絵の正体はわかる。

 先日、講座のときに、時々翻訳を頼まれて仕方なく引き受けるけれど、いやでしょうがないと心情を吐露した人がいた。断っておくが、この人は翻訳の仕事をすること自体がいやでそんなことを言っているのではない。どうやっても、いい加減なもの、言ってみればきたない日本語、本来ありえない日本語を並べたものにしかならず、その程度のものを納品しなければならないことが、自分にとって限りなく苦痛なのである。

 そう言えば、翻訳の勉強をあきらめる人のなかに、こんないい加減な気持ちではとても続けていけないという理由でやめていく人がいる。自分がいかにずさんで、緻密な思考ができない人間であるかを思い知らされ、自ら翻訳者失格の烙印を押してやめていく。
 そういう人はけっして恨まない。むしろ、そういう現実をきっちりとわからせてくれたことに感謝してやめていく。
 恨む人は、いつまでたっても指示ひとつ満足に守れないくせに、自分の訳文を評価してくれないと不満を募らせる人である。それでも、外国語を満足に読めない人口がこれだけの割合を占めている国だから、どこかに仕事を出すところはある。日本語としておかしくても、意味がわからなくとも、ちんぷんかんぷんの横文字で書いてあるよりは、とりあえず日本語になっていれば、それでお金を払ってくれる人がいる。

 下手な人がやめていき、上手な人が仕事に手を出すのではない。
 いい加減な気持ちでは続けていけないと思ってやめていく人の方が、稼ぎまくっている人よりも上手であることも珍しくはない。

 してみると、翻訳とはお絵かきロジックのようなものではないか。
途中で間違えても、それなりの絵は浮かんでくる。すこしくらい間違えても、とりあえず答えがわかれば別に気にならない人は、やみつきになっていつまでも続けていく。
ところが、何度挑戦しても、やはりどこかで矛盾に行き当たってしまうのが、気になってしょうがない人は、せっかくそこに面白いパズルがあるのに、もうこれ以上やろうとは思わない。

 JRの運転手が勤務中にお絵かきロジックをやっても、処分すればそれですむ。
 しかし、ゆがんだ絵を浮かび上がらせて、それをお金に換えている人をどうすればいいか。 今のところ、これといった名案はない。

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最終更新日  2007年10月06日 15時30分36秒
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