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厨房の連絡ボードの横に、追加注文専用の電話が置いてある。
それを取り次ぐのは、いつもはマネージャーなのだが、 今日のような、祝日などの忙しいときは、誰彼ない。 そのとき電話の傍にいた人が、 オーダーを受ける、というのが暗黙のルールになっている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 何回目かの電話が鳴った。みるとジャンが傍にいたが、 日本語など、まだほとんどできない彼にはむずかしい電話はだめだ。 私が出ようとして駆け寄ると、ジャンがひょいと電話をとってしまった。 そうして、まるっこい手で受話器を囲いながら、慣れた調子で 「アイアイ、ふ~ん、ふ~ん。うん、うん、アイ。そー、そー、 ソーネ。あ~いあ~い」 と頷いている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ やられた。すっかりダマサレた! だって、いかにもわかってそうな口ぶりなんだもん。 いたずら好きなジャンは、みんなの電話の応答をきいていて 真似をしたのだ。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ジャンはさんざん頷きつづけた挙句、 「チョトマテテ~」と言って、私に受話器を渡した。 相手は電話口で「何だよ、今のお?」と、いらついている。 すっかり、わかっているのだと思って話していたと怒っている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ しかしジャンのいたずらは、どこか憎めない。 迷惑がられながら、みんなに好かれている。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ でもさあ、 ジャン、忙しいときのいたずらは、いいかげんやめんさいよっ!! ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ <アジアンの猫>25 私はたしかめようと、もういちどその席に目をやった。 窓外の富士はもう消えていた。 声の主の姿が、端然とまだそこに在った。 一瞬を長く引き伸ばしたような、次元にいるような 心地がしていた。 つづく、、、、、、 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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