VAMPIREEYE74「殺生石」
VAMPIREEYE74「殺生石」緋川燿子:口には出さないが自分の狐火光線の事をキツネビームと名づけている[化け火]の田村蒼炎、[手長足長]の手塚と足利は全身から煙をあげて床に伏している。それを涼しい顔で眺める緋川燿子は扇子を閉じ、ゆっくりと近づいていく。「馬鹿な……7本尾の妖狐がここまでなんて……」「さて……吸血鬼の事教えてもらいましょか?」「言えるわけがないっ」田村は床から燿子を睨みつけて言う。「……まぁ、そうでっしゃろなぁ。ほな向こうから出てきたくなるように暴れさしてもらいます」燿子は七本の魔力尾を広げ先端から青白い光線をマンションの壁に放つ。田村、手塚足利を倒した燿子の狐火光線はマンションの壁を破壊し、中に隠された結界を顕にした。「結界の要は……そこですね」結界の要に光線を集中、いともたやすく破壊する。するとだだっ広い窓のない部屋から人二人がなんとかすれ違えるほどの幅の内廊下に変化した。「こうやって片っ端から結界潰さしてもらいます。そしたら出てきますやろ?」「……ふん、妖狐、お前が強力な化物でも相性というものがある。調子に乗っていられるのも今のうちだけですよ」田村がそう言い捨てるのを聞き微かに笑みを浮かべる燿子。「おや?」異質な魔力の気配を感じた燿子は真顔になりその場から飛び退いた。「これは……」田村と手長足長の下に黒い渦が現れ三人を飲み込んで行く。そしてその渦から現れたのは白いドレスを着た球体関節の銀髪少女。「ごきげんよう緋川燿子さん。私は『白峰冬華』どうぞお見知りおきを」ドレスの裾を持ち上げる冬華。その目は赤く燃えている。「ものすごい殺気ですなぁ、それにしても白峰……サイバネティクス吸血鬼だとは」燿子は扇子を広げて口元を隠す。「サイバネティクスでも私は紛れもなく白峰の者。この体には正当な白峰の血が流れています。お父様とお母様の邪魔になるのであなたには消えてもらいます」白い指を突き出して言い放つ冬華。「そうですか」燿子は7本の尾を持ち上げ先端から狐火光線を放つ。それに対し冬華は右手から黒い渦を出現させ狐火光線を飲み込ませた。「うぐっ……!?」燿子の背中に激痛が走る。振り向くと背後に黒い渦が出現していた。「どうですか?ご自身の狐火を浴びた感想は?」「なるほど、その黒い渦同士繋がってるのですね」「貴女の自慢の狐火光線は私には通じませんよ?」「狐火光線だけがウチの武器ではありませんよ?」燿子は尾の一本を横に薙ぎマンションの壁を砕いて破片を冬華に飛ばす。冬華は左手に出現させた光の剣でそれらを弾く。「うっ!?」冬華は背中に衝撃を受ける。別の方向から放たれた燿子の尾の一つが冬華を打っていた。「はっ!!」光の剣を振るう冬華、手応えはない。「狐火で作った残像?……やっ!!」側面に立っていた燿子に斬りつける冬華、それもまた狐火残像であった。「ふふふ、化かし合いは狐の得意分野ですよ」「……」冬華の前後に立つ燿子の残像7体。一斉に狐火光線が放たれる。狐火光線は冬華に命中する寸前に四方八方に散った。マンションの内廊下の壁に穴が空き、外の空気が入り込む。冬華は光の剣を7本自分の周りに出現させて防いでいた。「そんなこともできるんですなぁ」「やあっ!!」両手に光の剣を持ち燿子に飛びかかる冬華。対する燿子は二本の尾から狐火光線を放って冬華の脚と頭部を狙う。空中で体をひねり回避する冬華、足の裏のブースターを起動し空中で加速する。前方に突き出した光の剣で燿子の胸と首を狙う。光の剣が突き刺さった瞬間燿子の姿はまたも残像となり消えた。「!?」前転で受身を取る冬華。白いドレスを翻し二本の光の剣を構える。内廊下の天井と壁から尾が飛び出し冬華に襲い掛かる。光の剣で受け止めるも体勢を崩し数歩たたらを踏んだ。「一体どこから」冬華は感覚を研ぎ澄ます。「まさか……もうここには居ない!?」冬華は内廊下の奥に向けて剣を振るい光波を飛ばす。破壊された扉の奥、階段の踊り場に燿子の姿が見えた。扇子で口元を隠しながら笑みを浮かべている。「排除!!」両足のブースターで加速、一気に間合いを詰め切り払う。燿子の喉と胸から鮮血がほとばしる。「ぎゃあああ……」燿子の声ではない。「何!?貴方は手長!?」姿は陽炎に揺らめき手長の姿に変わった。「何をするんだー!!」倒れる手長を支える足長。「狐はどこです!?」「何言ってんだあんた!!狐なんてどこにも……」「……もういいです。わかりましたこうします」冬華の背後に無数の黒い渦が出現、そこから大量の光の剣が飛び出す。光の嵐と化した剣はマンションの内廊下の天井、壁、床に突き刺さり埋め尽くしていく。「これでどこに隠れようと……そんな!?」燿子は姿は発見できなかった。「だから言ったんだ狐なんてどこにも」足長が背後からそう言うと青白い尾が飛び出し冬華の首に巻き付いた。「ウチはここでした」足長の姿は陽炎に揺らめき、燿子に代わった。「さすが狐ですね……しかしこれで王手をかけたなどと思わないことです」冬華の背のハッチ6つから菱形の金属片が発射され燿子を狙う。至近距離で放たれたにもかかわらず燿子は扇子のひと薙ぎで全て弾いて防いだ。「悪あがきですなぁ。このまま首をへし折らせてもらいましょか。サイバネ吸血鬼なら死にはしないでしょうが戦闘不能にはなるでしょう」「もう一度言いましょうか?王手をかけたなどと思わないことです」弾いた菱形の六つの金属片は空中に浮き、冬華と燿子を取り囲む。そして赤い稲妻を発しお互いをつなげ、マンションの内廊下に結界を作った。「これは吸血鬼の結界!?」危機を察知した燿子は残る6本の尾を菱形の金属片に向ける。「もう遅いです!エナジースティール!!」冬華が叫ぶと燿子の全身から青白い魔力のオーラが放出され冬華の口に吸い込まれていく。「ふふふふふ……小規模ですが大掛かりな仕掛けと媒体がなくても私は自らの結界を瞬時に張れるのですよ。これが科学と魔術のハイブリットである魔導の力!お父様とお母様、私の力!!」「……ウチとした事が……これは不味いですね」膝をつく燿子、魔力の尾は一本また一本と消えていき5本に減る。「それでもまだ私を離さないとは」「5本あれば十分ですよ」尾を尖らせ冬華の胸を狙う。しかし冬華はそれを片手で掴み、握りつぶす。「この結界の中で、吸血鬼の領域の中で勝てると思わないことですね」「……結界の外ではどうですかね?」燿子は微笑みながら挑発する。「挑発は無駄です。このまま魔力を吸い尽くしますよ」「……貴女は白峰華月と白面金毛九尾の狐の対決はご存知ですか?」「??」燿子の不意な質問に冬華は固まる。「結果は白峰華月の勝利に終わり九尾狐は封印されました。封印された時、狐の尻尾はなかったそうですわ」「意味がわかりません、何故この状況でその話を?」「九尾の狐は封印される直前に尻尾を飛ばしていたんです。そして分身を作り上げたと」「まさか」「ウチはあれから用心深くなってましてなぁ……」「おしゃべりはもう結構です!首をはねて終わりにします!!」光の剣を上げる冬華、振り下ろした瞬間、青白い閃光に包まれ吹き飛ばされた。「……一体何が!?」冬華の眼前には青白い石が二つ浮かんでいた。燿子を守るようにゆっくりと浮遊している。「今の衝撃で結界は破壊できたようですなぁ」「……それでも、魔力は殆ど吸い取りました。そちらに勝ち目はありませんよ」「そうでっしゃろか?この殺生石に込めた魔力は貴女が吸い取った以上にありますよ?」「殺生石……!?」冬華は自身に内蔵されたネットワーク機能を使い検索。「なるほど、玉藻前の」「九尾に戻れる魔力が集まるまで殺生石は回収するつもりはなかったのですが、一応保険の為に持ってきて正解でしたね」殺生石から狐火光線が放たれる。冬華は光の剣で受け止めた。「おや?例の黒い渦を使ってウチに返さないんですか?」「……五月蝿いですよ!」冬華の背後に黒い渦が出現、そこから光の剣が無数に飛び出し燿子を狙う。燿子は5本の尾で防御、突き刺さっていく光の剣。「(少し分かった気がしますあの黒い渦の使い方)」「さぁ!そのまま無残に針千本の串刺しになりなさい!!」ひるむことなく燿子は尾を半分残して切り取り、盾にしたままその後ろで扇子と殺生石を持って構える。続く