マジック・ザ・メイカー5話「魔女と来訪者」
マジック・ザ・メイカー5話「晴凛ちゃんもどう?美味しいから食べてみ?」「あ、はい」 恐る恐る口に運ぶ晴凛。口に入れた瞬間マシュマロの用にとろけ甘味が口全体に広がる。柑橘系の香りとあと引く風味。 「おいしい!みかん味ですかこれ?」 「ふっふっふ……みかん、そう思うやろ?こうやって練ればまた味が変わるんよ~?」 鍋の菓子を練ると徐々に紫色に変わっていく。 「今度はグレープ味!!すごい!!」 「このお菓子はねぇ、何回味を変えられるかどんな味に変えていくかが腕の見せどころやねん。このお菓子は魔女によって個性が出るから面白いんよ。カレー味から梅干し味、マグロの寿司味とかもできるんよ?」 「へぇ~」 混ぜ菓子を食べ、紅茶で一息つく晴凛。思い出したように冥珂に話しかける。 「……そうだ!お菓子を食べに来たんじゃなかった!」 「そうやったね、何の話するんやった?」 「アレですよ!色々な事です!!」 「そうそうアレね……って、全部話してたら今日だけで終わらんよ……」 「ええ~……」 「冗談冗談!分かりやすくちょちょいと必要なところだけ話したげるよ」 「お願いします……」 冥珂はなるべく簡単に藤邑との事を晴凛に話した。 「さて……ここまでで質問はある?」 「はい、この街の状態は分かりましたが……そもそも藤邑って人何がしたかったんです?悪魔か何かの力を使ってたんですか?オカルトですか?」 「直球でくるねぇ晴凛ちゃん。いいね若いってのは、話が早くてこっちも助かるわ。……藤邑は契約者やね。この世界にはおらんもんの力を借りてたんや。それはまぁアタシもやけどね……オカルトといったらそうかもしれんけど紙一重なんよ?」 「というのは?」 晴凛は机に肘を付き身を乗り出してごくりと唾を飲んだ。 「ダークエネルギーとかダークマターって聞いたことない?」 「えっとそれは……JHKの番組でちょこっと聞いたことは……宇宙に存在するものですよね?宇宙は真空ではなくダークエネルギーとダークマターが漂っているとか?なんならこの地球もそれらで包まれてたり?さっきスフィンクスもそんなこと言ってました」 「ざっくり言うとオカルトの不思議パワーってそれなんよ。アタシがビーム飛ばしたりとか変身してるのはそれが関係してる。で、その力をアタシに貸してくれてるのがこの世界におらん存在、別次元におる……神とか悪魔とか精霊とか呼ばれとるもの」 「え~……ちょ、ちょっと待ってくださいオカルト不思議パワーって宇宙のエネルギー!?冥珂さんのアレって魔法じゃないんですか?そもそもダークエネルギーって存在するってだけ言われてて実用段階どころじゃないとか言ってましたよ」 「実用段階じゃない……というのは科学の視点であって魔術の世界ではダークエネルギーあってこそなんよ。魔術的な力の解釈……魔力とかいうんやけど、まぁ同じものを指しとるんよ」 「魔法とかって……その……生命エネルギー的なものじゃないんですか?私が今まで見た漫画とかアニメだとそういう感じなんですけど……」 「それもそれで間違いじゃあないんよね。でも人間自身の生命力だけで扱えるダークエネルギーはそんなに大層なことはできひんし効率悪いねん。だから色んな魔法術があるんよ。えっとねぇ、ざっくりいうとダークエネルギーはそこにあるだけでは何も起きひんのよ。何か『きっかけ』があってダークエネルギーは初めて使えて不思議なことがおこせる。」 「きっかけ……ですか?」 「例えば」 冥珂は指先で空中にルーンを書き小さな火の玉を出現させ煙草に火をつけた。 「アタシは指先にダークエネルギー集めて、空中にルーンを書いて火を起こした。今のはルーンが『きっかけ』っちゅう訳」 「おお~……じゃあ私もルーンを使えば火を起こせます?」 「それは無理やね。晴凛ちゃんはダークエネルギーを指先に集めれへんし」 「やっぱりそんな簡単なものじゃないんですね……」 「まぁそうなんよね。ダークエネルギーを感じて自分の生命力で集めたり、体内で練りこんだりするのはコツと修練がいるしかなり消耗するし、ダークエネルギーを出力する物を使ったとしてもやっぱり練習してやっと使えるもんやからね。アタシは魔女やから『異次元のもの』と契約して繋がってるし生命力使わんでもドバドバダークエネルギー使えるねん。デメリットもあるねんけどな」 「漫画とかアニメの話なんですけど、超能力者はどうなんですか?個人だけですごい力発揮してるように見えるんですけど?」 晴凛は漫画で見た稲妻やテレポート、サイコキネシスを操る超人のヒーローを思い浮かべた。 「あれはねぇ……厳密にいうと普通の人間じゃないんよ。脳とか体の構造がたまたま『異次元のもの』に近い構造の存在やね。せやから自分の生命力をそんなに使わんでもダークエネルギーを沢山利用できる」 「……それってミュータントってやつですか?」 「んー……まぁミュータントと言えばそうやね。なにかのきっかけでそうなる者もおるし、転生とか融合とか、まぁまぁ色々なケースがあんねんな、大体そういう解釈でいいで。アタシみたいな魔女も『異次元のもの』と契約した時点で人間では無くなってんねん。藤邑は正式な契約をせずになった魔女もどきってやつや」 「へぇ~……そうだ、冥珂さんあのタロットカードとかはどういうものです?」 晴凛は冥珂のカードから様々な現象が起きたのを思い出した。 「このカードね。これはまた説明が……う~ん、どうしたら伝わるかな。このカード一枚一枚には膨大な情報を詰め込んであるねん。カード無しでこのカード一枚一枚の現象を起こすのはそれはそれは長い呪文とかルーンとか魔法陣とか秘薬とか準備が必要になるんよ。それらの工程をざっとまとめて短くしてさらにダークエネルギーもある程度ため込んでおけるようにしてあるんよね…………ちなみにこのカードを考案したのはアタシ!第一人者なんよ!」 冥珂は自慢げに胸をそらし煙草の煙を上に吐いた。 「へぇ~凄い!…………ん?それってそのカード物凄い価値があるとか?」 「高いよ~これ。アタシオリジナルのタロットカードなんて1枚で数億いくよ?スフィンクスの戦車のカードなんか10億以上で売れるんちゃうかな?ま、売らへんけど」 「10億!?あ、あわわわわわ……10億のカードを私預かってて……」 「まぁそれは価値が分かる所で売った時の値段やね。アタシは今まで何人か弟子おったけど売ろうとした奴はおらんかったね。……あー今の弟子はしょっちゅう狙ってたか」 「や、やっぱり10億の価値があるからですね。そのお弟子さん盗みたくなるの無理も無いですよ……」 「いうてもアタシはカードの位置分かるしすぐにばれるんやけどね。アイツは金のかかる研究ばっかりしとったからなぁ」 「研究ですか……魔女の弟子の研究って何をするんですか?錬金術とか?」 晴凛は映画などで見た魔法使いの館でビーカーや怪しげな薬を並べてる光景を思い浮かべた。 「アイツは……機械のプログラムを魔術に置き換えて科学と魔術のハイブリットでどこまでできるかをやっとったな。文字記号を扱うのがアタシの得意分野なんよ。アイツはそれを機械のプログラムに置き換える事ができると気づいてね。それは多くの人間が試して失敗してきた道なんやけどアイツは置き換えに成功した。せやけどそれはめちゃくちゃ金がかかるんよ。科学と魔術両方の機材と資材がいるからね」 「へぇ~……その科学と魔術のハイブリットで何ができるんです?」 「うーん……機械にはできなかったことを魔術で補うんよ。何ができるかっていうと……機械をダークエネルギーで動かすとかかな。アタシは機械に弱いからどこまでの事が出来るかよく分からんのよ。例えばそやねぇ……UFOあるやん?あれって科学と魔術のハイブリットと言われてるんよ。宇宙人の技術って科学でもない魔術でもない文明やしねぇ」 冥珂は練り菓子を練ってザクロの味に変えたあと口に入れた。 「え?え??宇宙人??ですか??そこで宇宙人の話!?」 「せやで。昔っから宇宙人は地球に来とるで?色んな種類の奴がね」 「ええ~!?じゃああの噂も本当だったんだ……」 「噂?晴凛ちゃんその噂について詳しく教えて」 晴凛は学校で噂されている漢山のUFOの話を冥珂にした。 「ほぉ~……この近くにUFOね。普通の人間には見つけることはできんやろうからアタシの出番かな。UFO探索はこれで3回目や。例の弟子と一緒にやったのが2回目やってん」 「UFO探索ですか!?宇宙人てヤバくないんですか??」 「人間と一緒でヤバいやつもおるんやけど地球に何回も来て某国と取引してる奴らは友好的やで?今までの経験上ね。ホンマにヤバい奴らはまぁ……人間とか友好的な宇宙人とかで協力してほぼ撃退したんやけど何かのきっかけで戻ってくるかもしれんし生き残りがおるかもしれんね。でもまぁUFOってことは有名な宇宙人の可能性あるね」 「有名な宇宙人って……!」 晴凛は大きな声でツッコんでしまった。 「一般人に見えて落ちたってことは何かトラブル発生したんやろなぁ。助けて恩を売れば何かええもん貰えるかも。この練り菓子前に会った時あげたけどめちゃくちゃ喜んでたで?せやから練り菓子味の飴もあげたんよ。なめれば舐めるほど味が変わる……」 「ヤバイ奴かもしれなかったんですよね?」 「それはそれで放っておくわけにはいかんしね」 「ええ~……!!マジですか……魔女と宇宙人て全然繋がりないものだと思ってました……現実はこうなんですね」 「あはは……まぁアタシも初めて宇宙人に会った時はビックリしたよ。標本とか資料で見たことはあったんやけどね。前回会った宇宙人は練菓子あげた後、弟子と一緒にUFOの修理してお礼に鏡と珍しい布貰ったよ」 「鏡と布ですか?」 「ふふ……」 冥珂はコンパクトを取り出して見せた。 「……あ、冥珂さんのコンパクトってもしかして!?」 冥珂はコンパクトを取り出した。 「そう。このコンパクトの鏡は宇宙人に貰ったものやねん。この鏡は交信したい者と繋がれる鏡なんよ。アタシはこの鏡にちょちょいと細工して自分の契約してる『異次元のもの』と繋がれるようにしたんよ。魔術でこんな鏡作るとしたらエライ大事やで?白雪姫の魔女が使ってた鏡も同じようなもんやけどあれめちゃくちゃすごいんやで?」 「鏡の魔女!!」 「そう!あの鏡の魔女や!」 「うああああ!すごい超有名な魔女!!……それで、もうひとつの宇宙人からの布はどうしたんですか?」 「あれは弟子が持ってったで」 「その布も何かすごい話があるのでは?」 晴凛は期待に胸を膨らましながら言った。 「そうやねぇ……その宇宙人な、見た目はウチらとほぼ一緒なんやけどね白い髪に白い肌で目が赤いねん。そんでみーんな女の子みたいな見た目なんよ」 「そうなんですか!?男女の差があまりないんですかね?」 「んー……そういう区別ないみたいやったけど?その宇宙人らは昔っから地球に日本によく来てた連中の子孫なんやて。月にアジトがあるとか言ってたね……」 「へぇ~……って冥珂さん宇宙人の言葉分かるんですか?」 「いや全然?だから筆談よ。相手の意思を感じ取って自動書記する魔術道具でね。文字は何とか資料で覚えてたけど言葉の発音はわからんのよね。向こうもそれは同じみたいで一生懸命ひらがなを書いとったよ。ああ、話が脱線したね、布の話ね」 「あ、そうです布です!」 「ぶっちゃげいうとアレは天の羽衣かな。晴凛ちゃん知ってる?」 「え?天の羽衣?ここで日本の昔話ですか……そうですねぇ「かぐや姫」で出てきた気がします」 「あれに近いものやったんよ。かぐや姫に出てくる天の羽衣の『人としての悩みがなくなる』ほどの効果はその布には無かったけど弟子は良いように変わったねぇ。普段はネットでしかやり取りしてへんかったけど実際会った時は何や辛気臭い子やなぁと思ってたもんや。それが布をマフラーにして身に着けるようになってからわネット越しでも分かるくらい明るくなったんよ。こないだ東京行ったついでに会ってきたけどそりゃもう生き生きしてたわ。変な事件に首突っ込んどったけど」 「いいなぁ~私も不思議アイテム欲しいなぁ~…………ん?あれ?じゃあかぐや姫って宇宙人なんです……か?」 「んーかぐや姫は地球人との混血とからしいけどその宇宙人もその辺のところはあんまり知らんらしい」 「なんか宇宙人に親近感わいてきた……」 「……話しといてなんやけどまぁ宇宙人に興味持つのはほどほどにしといた方がええかもね。UFO乗ってくる奴は話が通じるほうやけど隕石で来る奴はヤバい奴がほとんどやし」 冥珂は短くなった煙草を消してハーブの入った水を飲んだ。 「漢山のUFOの調査行くわ。……晴凛ちゃんは危険やし来んとけと言いたいけど気になるやろ?」 「はい!気になります!!」 晴凛は思わず立ち上がって言った。 「じゃあ一緒には行けへんけど水晶玉でライブ映像を見とって。スフィンクスの目と同期させとくから」 冥珂は戸棚から取り出したソフトボール大の水晶を晴凛に渡した。 「あ、ありがとうございます!」 「おうちでゆっくりとしながら自分の部屋で見てね。音声はスフィンクスの戦車のカードを耳に当てて聞いて」 「はい!」続く