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カテゴリ:読書日記
小室直樹という名前を聞いて 学術系に関わる人は大抵「嫌な顔」をする。 なぜなら、支離滅裂な主張 大衆によりそった大風呂敷の啓蒙活動。そして、大衆に支持された在野研究者。 しかし、最近になって、小室直樹の業績が橋爪大三郎や宮台真司などから紹介され 見直されるようになってきている。 10年前は小室直樹の本がBOOKOFFでカッパ・ブックスや単行本など 100円程度で購入できていたが、今は ほぼ売っていない。 私も 小室直樹博士については「フルブライト奨学生になり 支離滅裂な主張や おもしろおかしく 理論経済学 社会学 政治学 法学を わかりやすく解説する TVに出まくっている池○と同じような ベストセラー作家としか思っていませんでした。 だから 小室直樹博士の著書を立ち読みぐらいで参考文献にもしませんでした。 しかし、資本主義の研究をしていると、どうしても大塚久雄の『株式会社発生史論』や、資本主義の歴史で大塚史学を勉強することになり、どうも小室直樹博士が大塚久雄先生の弟子だったということを知り、いろいろ 小室本を読んでみて「大塚史学」をよく勉強されていると思ったものでした。 まず、小室直樹博士が『日本資本主義崩壊の論理』で言いたかったことは何か? これを精読して読み取れるか?読み取れないか?で、この本の価値を見出すことができるか?できないか?ということと同じである。 いきなり結論からいってしまうと、日本資本主義には「資本主義の精神」らしきものがあったのだが、それが崩壊していくことになる。なぜなら、資本主義の精神が無くなっているからだと。 もっといえば、アメリカ病になっているのである。 そして、アメリカ病の原因は、「資本主義精神が腐っている」からだ。 資本主義精神が腐っているから、前期資本主義(=金儲け優先の経済状況)へと進んでいる。 これは資本主義ではないと。 この状況に日本の資本主義は突き進んでいるから崩壊するのだという論理なのです。 ここで大事なことが、マックスウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で書かれていることなのですが、「資本主義の精神とは何か?」ということを、本当に理解している人が少ない。 なぜなら、多くの人が『プロ倫』を誤読をしているからなのです。 小室博士はマックスウェーバー研究の大家である大塚久雄先生から直伝されたわけですから、そのエッセンスは忠実に理解されていると思います。 この本でもウェーバーのエッセンスがちりばめられています。 しかし、あまりにも読みやすくて読者が、本当に理解しているのかどうか?が疑問なほどなのです。 だから、AMAZONなどの書評には誰も書けないわけなんですよ。 この本を読む前に、『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』と、最低でも岩波新書の大塚久雄先生の著書である『社会科学における人間』ぐらいは読んでおかないと、理解しずらいと思います。 まず、ウェーバーは資本主義の発達史について、「資本主義の精神」で全てが説明できるとは思っていないし、『プロ倫』で、何度も「資本主義の精神」によって、資本主義を解明できるとは思っていないと書いている。 例えば、日経クラッシックス 中山訳 の新訳における『プロ倫』でも 「また、わたしたちがここで検討している歴史的な現象(資本主義発達史)を分析するには、これから説明しようとする視点だけが唯一のものであるわけではない」(P44)と指摘している。 さらに、「資本主義の精神」は、資本家及び、賃金労働者、双方持っているものだ。 (資本家だけが「資本主義の精神」をもっていると誤読している人がなんと多いことか) あと、ウェーバーのいう資本主義とは 「金儲けで得た利益を、さらに産業投資することと、合理的な目的と計画にもとづく経営することによって、成り立つ経済体制」なのである。 それを担うのが、「資本主義の精神」をもつ人々なのだということなのだ。 このことは大塚先生も指摘している大事な点です。 ちょっと引用してみましょうか。 「ウェーバーによりますと、『資本主義の精神』とは、なによりもまず、『中間的生産層』に属する人々の掌中に蓄積されてくる貨幣あるいは資金を、ボロ儲けできる商業などにではなくて、堅実な産業経営の建設のほうに振り向けるような方向に、中産的生産者層に属する人々の思考と行動を推し進める、そういうエートス(倫理)なのです」 『社会科学における人間』岩波新書 P132 要するに、宝くじで一発屋で金持ちにあこがれる社会ではなく、コツコツと地道に経営し、一歩ずつ階段を上がるような経営をしながら社会生活を行う経済体制。 これができないと、人・モノ・カネ・技術・情報など、いくら無尽蔵に使っても資本主義にはならないんだと。 「資本主義の精神」をもつ人々がいないと、資本主義は成り立たないのであるというのが、ウェーバーの論考なわけなんです。 (彼は、これだけで資本主義を説明できるわけではないと言っていることに注意が必要) あと、大塚先生は、今の硬直化した企業への処方箋も、きっちり説明されています。 「それは「資本主義精神の特質」についてですが、『現実』には、ちょうど楕円のように二つの中心をもっており、その二つの中心が相互に引っ張り合いながら、ついには一つになりえないでいたと指摘しています。 その中心とは、『隣人愛の実践』と、仕事に専心していると結果として『利潤』が生じてくる。 しかも自分たちの仕事がほんとうに有効な隣人愛の実践となっていることを証明してくれるのは、結局、利潤の獲得だということになる。 しかし、金儲けと隣人愛は次第に離れていく運命だったようです。」 『社会科学における人間』岩波新書 P136 要するに、企業内でも「隣人愛」=「助け合い」の精神によって、結果として利益が生じるのだと。 ギスギスした職場や、パワハラ、さらには精神的な不安定を強いる職場環境。 成果主義や実力主義など、資本主義の精神に反する企業内システムともいえるでしょう。 これらの問題は、資本主義精神の崩壊の前兆といえるのではないでしょうか。 さて、ここまで説明してから、小室博士の本を読むとどうなるのか? そう、小室博士が一番いいたかったのは、山本七平が指摘した日本の資本主義のエートスが素晴らしい発見だったこと。 そして、その山本が指摘した日本資本主義の精神が地に落ち、なくなりつつあるのだ。 さらに、山本が指摘した日本資本主義精神を失った日本は、結局、崩壊していくのだという論理なのです。 なぜ、日本陸軍が出てくるのか? それは、慶大の菊澤研宗教授の本を読めば、一目瞭然でしょう。 詳細は、『組織は合理的に失敗する』や『戦略の不条理』、さらには、NHKが放送していた『日本人はなぜ戦争へと向かったのか』を参照。 そして、小室直樹の名著である『危機の構造』。 日本陸軍も現在の日本の企業も、同じ病に陥っているのだということを、いち早く、小室博士は知っていたわけなのです。 それを指摘したのが『危機の構造』なわけなのですが。 だから、この本の最後の最後の唐突に日本陸軍のように日本企業も落ちぶれると書いてあるわけなんです。 今、『日本資本主義の崩壊の論理』で小室博士が予言したことが現実になりつつあるように思います。 ただ、やみくもに、政治や政策では、この国は動かない。 日本人がもつエートスを再度、取り戻す教育や社会制度を、明治維新のように再構築しない限りは、この国は崩壊するのだという、小室博士の遺言のようにも思います。 このように説明できる学者、評論家など日本の知識人層や学者層には、ほとんどいない。 よりによって、ウェーバーの本の解釈のみに走りすぎ、本質を見極めていないのである。 ウェーバーの研究者は日本では非常に多い。 しかし、ウェーバーの文献を誤読している研究者が、世界的に多いのである。 唯一、日本では、ウェーバーの研究の泰斗であった大塚久雄先生がいらっしゃったから、多くの業績を私たちは彼の著作を通して読めることができる。 その著作までも、私たちは誤読していることが多いということも。 現在、日本は金儲けを第一とする社会(=拝金主義)に落ちぶれてしまった社会へと突き進んでいる。 その拝金主義、一攫千金の妄想が、漂う雰囲気に満たされた社会が、日本資本主義の崩壊の原因であることを、よく認識しなければいけないということなのです。 今、日本では「金儲け」「お金があればなんでもできる」という風潮になっています。 これは 大塚久雄先生 小室博士から言わせてみれば「こんな状況は 資本主義ではないんだ」と。 そして、小室博士はこの風潮こそ「日本資本主義が崩壊へと突き進んでいるのだ」ということを主張しているわけです。 おそらく、この予言があたるかどうか? 今の 日本の産業 経団連の提言 日本政府の経済政策を見てみれば、おそらく この予言は間違いなく現実化しつつあるというのが私の感想です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021.05.07 10:23:55
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