脳を生かす仕事術
『脳を生かす仕事術』~「わかる」を「できる」に変える~ 茂木健一郎著36ページ感覚系と運動系のコミュニケーションを行うためには、出力が欠かせません。感覚系回路からインプットした情報を運動系回路を通して一度外部に出力し、再び感覚系回路で入力する。このサイクルが成立して初めて、感覚系と運動系が同じ情報共有できるわけです。これは人間の記憶の仕組みにも共通していえることです。人間の脳は、情報をインプットしても「そのままの形」で保存しておくことはできません。残念ながら人間の脳の容量には限界があるからです。脳に入った情報は、そのままでは断片化したままですが、そこに「行動」や「体験」を加えることによって、少しずつ整理・編集され、「意味」という抽象概念に変換されます。この抽象化のプロセスを経ることで、他の行動に応用がきくようになり、ここで初めて「役立つ経験」となります。52ページ脳のポテンシャル(潜在能力)を最大限に発揮するには、「情報の整理や暗記に頭を使わないこと」重視している65ページ僕は、人が成長するときのきっかけは「背伸び」だと考えています。そして、背伸びをするときに欠かせないのが、他人の目です。そういう意味では、ブログは究極の「背伸びマシン」と言えるでしょう。74ページ「タイムプレッシャー」とは、自分の作業に制限時間を設けることで脳に負荷をかけ、それを乗り越えたときの喜びによって、脳の回路を鍛えるやり方です。95ページ完成度の高い仕事には、「拡散」と「収束」が共存共鳴している。「感覚系学習」は「拡散」、「運動系学習」は「収束」とも置き換えることができます。「拡散」とは感覚系の領域の活動のことであり、様々なことに関心を向けて、見る、聞くなどして情報を入手することです。その一方で「収束」する、実際に企画書を作り上げる、企画書を作り上げプレゼンテーションをする、という運動系の領域の活動をしなければ、意味がありません。102ページかつてのホワイトカラーは、高い事務処理能力を持っていることが評価されていました。しかし現在、事務処理のほとんどはコンピュータが肩代わりするようになりました。これからも、コンピュータやインターネットの発達によって、単純な事務作業はどんどん少なくなっていくはずです。では、これからのビジネスパーソンに求められる能力は何か。それは、「創造性」や「知的付加価値」を発揮することです。自分が社会にもたらせる知的付加価値とはいったい何か。常にそれを考え、実行することが大切になってくるのです。114ページひらめきを得るために日頃から準備しておくのは、脳科学の知見から行っても、とても大切なことです。実は、人間の脳には「いつ起こるか分からないひらめきをキャッチする」ための回路が備わっているのです。側頭葉にある「ACC(全部帯状皮質)」とその近くにある「LPFC(前頭前野外側部)」がそれです。ACCは、面白いことや新しいことを発見したときにシグナルを送る機能を担っています。一方、LPFCは脳の司令塔ともいうべき場所です。ACCから送られてきた情報をもとに、脳内の各神経細胞に信号を送って活発に働かせたり、逆に休ませたりしながら、特定の情報に脳を集中させる役割を持っています。脳の中のアンテナと司令塔。これら二つの連係プレーで、脳はひらめきのタネがないか、常に見張っているのです。このひらめく力をより大きく育むためには、リラックスした状態を作り出すことが大切です。156ページ笑うためには物事を客観的に見る「メタ認知」の視点が欠かせない。職場において笑う、冷静かつ客観的な視点を保つには、ちょっと余裕を持って物事にあたっていなければできないことです。160ページ「無意識を意識化する」言葉になっていない情報や意識化できていない感情には、人間の脳を非常に不安定にするという特性があります。逆に言うと、こうした情報・感情に名前をつけてラベルを貼ると、脳はその情報をひとかたまりのものとして扱えるようになります。それによって、脳や感情が安定を取り戻すことは意外に多いのです。161ページよく「人間の脳は潜在能力の10%程度しか使っていない」と言われています。しかし、神経細胞の数でいえば、実は大部分を使っています。一方、脳の「モード」という意味では、僕も含めて、多くの人が10%どころか、まだ数%しか使っていないのです。169ページ僕の好きなニーチェの言葉に、「古代ギリシャにおいては、専門という概念はなかった」というのがあります。173ページ確かに、迅速な意思決定などの能力は鍛えられ、実際にアメリ画ではコンピュータゲームを使って能力を高めるという研究が行われているほどです。しかし、そこからぬけ落ちてしまっているのは、「メタ認知」の能力なのです。自分たちの置かれている状況を外から見て、ちょうど面白いようにルールを決める、ということです。これは、コンピュータゲームだけではどうしても育めません。この「自らルールを作る能力」は、当然、仕事力にも影響します。既にできたルールに従って、その枠の中でベストのパフォーマンスを発揮する、という仕事の仕方を得意とする人は、結構多くいるでしょう。しかし、自分でルールを作って、仕事のパフォーマンスを上げようとしている人は、一体どれくらいいるでしょうか。「自らルールを作る」には、自分を客観的に見る「メタ認知」の力が必要となります。180ページ人間の行動を最も束縛する要因は何でしょうか。いちばん大きいのは、自分の中にある制御装置、リミッターです。行動の範囲を広げるためには、まずこのリミッターを解除しなければなりません。それが「脱抑制」です。抑制を外して、自分自身を「本気」にさせること。命を生き生きと輝かせる仕事術の秘訣の一つです。脳を本気にさせるためには、リアル(現実)に触れることが大切です。なぜなら人間の脳には「リアルに触れると本気になる」という特性があるからです。あるアメリカの実験で興味深い結果が出ています。子どもの語学学習に関する調査で、「中国人にじかにあって発音を聞く」というケースと「テレビモニタを通して中国語を聞く」というケースの、学習効果の違いを比較したのです。結果、中国人からじかに発音を聞いた子どもたちは簡単な中国語が分かるようになりました。それに対して、テレビモニタを通した子どもたちは、中国語の発音を聞き取れなかったのです。自分の脳に「本気」になってもらい、脱抑制を行うためには、なるべく多くのリアルに触れることが大切です。