NHKスペシャル『父と子 市川猿翁・市川中車』
思わず正座して見てしまいました。見終わったあとの『重さ』はなんだろうと考えました。俳優さんとしては押しも押されぬ名俳優である香川照之さんが40代後半から飛び込んだ新天地とは…。歌舞伎の世界。そして病と戦う父の元で歌舞伎役者としての道を進み始める。40年も断絶していた父子関係をより戻す過程をカメラが追う。福山雅治さんのナレーションは淡々としていて、静けささえ感じる。市川中車さんの内に籠る激情と、父で師匠でもある市川猿翁さんの冷静な眼差し。これは、血を繋ぐための父子のせめぎ合いのようにも感じた。それは許す許さないとか、認める認めない等という下世話な話ではない。福山雅治さんのナレーションが、感情を押さえているのが素晴らしかった。市川中車さんの熱い気持ちが、更に引き立つナレーションである。福山さんの引き算の上手さ。脱帽でした。香川照之さんの息子さんも『市川團子』さんとして歌舞伎デビュー。とても聰明な息子さんで、将来が楽しみです。香川さんのお母様である浜木綿子さんが猿翁さんを見つめる目は、菩薩のようでした。歌舞伎という、別世界。庶民にはわからないなにか突き動かすものがあるのでしょう。市川中車さんの襲名の舞台を見ながら、新世代の『スーパー歌舞伎』のスターが生まれたと思いました。『市川猿之介さん』『市川中車さん』の『おもだかや』が新しい歌舞伎を切り開いて行く予感がします。とても重いテーマでした。でも『市川中車さん』のまっすぐな気持ちと、『市川猿之介さん』の爽やかなフォローに救われた気がする。これからの『おもだかや』に期待は膨らみます。