3月に人口減の与那国島、4月に人口増の石垣島
「日本の西端、国境最前線の与那国島(よなぐにじま)の人口は 1,600名ほど。平成15年には 1,800名あまりの住民がいましたが、平成18年に 1,700名になりました。そしていまや 1,600名ほど。 なぜこんなに急速に人口が減るのか、知っていますか?」 11月1920日、ある国際研究所のひとの話を聞いた。実名を出しても問題ないとは思うが、かりに渡辺さんとしておこう。 最近、実態調査のために与那国島に行ってきた渡辺さんから答えを聞いて、「あぁぁァ」 と うめいてしまった。 読者の皆さんにヒントを差し上げよう。町役場のホームページに出ている 与那国町(よなぐにちょう)の人口動態表 だ:■ なぜ3月に島外転出が集中するか ■ 人口が減っているのは、高齢化が進んでお年寄りがどんどん亡くなっているからだろうか。 そうではない。人口動態表から分かるとおり、八重山郡与那国町の毎年の出生数と死亡数は、ほぼ釣り合っている。 毎月の転出数に注目していただきたい。3月に転出が集中している。年々60~80名が3月に転出している。 この数が他の月なみになれば、人口はむしろ微増する。 3月の転出が多いのは、新年度からの就職のために新卒の若い人たちが出ていくからだろうか。 いや、そうではなさそうだ。毎年3月の転出者は60~80名。一学年がそれほど多ければ、与那国島には600名ほどの小・中学生がいることになる。 人口1,600名の過疎の島で、それはありえないだろう。 渡辺さんが正解を教えてくれた。■ 3月に人口減の島、4月に人口増の島 ■ 「3月に転出が多いのは、与那国島に高校がないからです。かつて高校の誘致に失敗したことを、今でも島の人々は嘆いています」 え? それって、どういうこと? 「子供が島外の高校に進学するとき、下宿生活・寮生活をさせて仕送りをしてやれるほど、与那国島の住民は豊かではないのです。 仕方がないから、子供の高校進学を機に一家まるごと島を出て、石垣島などに引っ越してしまうわけです」 あぁぁァ、そうか、3月の転出者の数は、高校進学を迎えた子供のいる家族の父母や兄弟らを含めた数なのだ。 念のため、与那国島の東方120キロのところにある 石垣島の人口動向 を見ると、石垣市の人口は毎年4月に顕著なかたちで増えている。■“南クリル地区”の高校対抗競技大会の写真 ■ 渡辺さんは言う。「国境最前線の町や村に住民が“ちゃんとそこにいる”というのは、とても大事なことなのです。国境防衛の基本です。 ドイツなど、国境最前線の町や村の人口が減らないように、手厚い住民支援の政策を行っています。そういう戦略的な国境政策が日本には欠けています。 与那国島も対馬も、重要な国境離島です。国家戦略の観点から住民支援を行う必要があります」* わが国の北方四島を不法占拠するロシアは、島に高校を設けているのだろうか。 調べたところ、小・中・高校一貫の11年制の学校が、択捉(えとろふ)島・国後(くなしり)島・色丹(しこたん)島に設けられていることが分かった。(日本の学制は 6・3・3 だが、ロシアの学制は 3・6・2。歯舞群島には国境警備隊員がいるだけで、一般住民はいない。) こんなところでロシア語の知識が役立つとは思わなかったが、最新の写真をお目にかけよう。ロシア語で「色丹 学校」でグーグル検索してみた結果だ。http://www.skr.su/?div=skr&id=89108 ロシアのいう 「南クリル地区」 の高校対抗競技大会のようす。平成22年11月11日にアップされた記事である。 ロシア語の記事を読むと 「色丹と国後の5つの高校が参加した」 と書いてある。■ 正しい国境政策の見本 ■ 独立行政法人 「北方領土問題対策協会」 のパンフレットによると、≪択捉島、国後島、色丹島には、約16,555人のロシア人(択捉島6,387人、国後島7,044人、色丹島3,124人)が住んでおり、歯舞群島には国境警備隊員が駐留するだけです。〔3島の人口は、サハリン州国家統計局編 「クリル3地区の社会経済状況」 (2008年) による。〕≫≪北方四島の教育制度は、小・中・高校を一貫した11年です。四島には大学がないのでサハリンや大陸の大学に進学する人も少なくないようです。≫≪ロシア政府は 2007年から 2015年までに約 179億4,000万ルーブル (2009年12月現在の為替レートで 592億円) を四島等の社会・経済開発に投入する計画であると言われ、道路修理、港湾整備、ヘリポートの建設などの社会基盤整備が行われています。≫ 不法占拠は絶対に許せないが、一国家として “ロシアからみれば正しい国境政策” を推進中であることは確かだ。■ 与那国島支援の具体案 ■ では、与那国島の教育支援は、さしあたりどうすればいいのだろう。 端的にいえば、県立の中高一貫の6年制の学校を与那国島に作るべきである。 また、島外の高校・大学に子供を通わせる家庭には、家族が島に残ることを条件に潤沢な奨学金を出して、子供とともに家族がそっくり島外に転出するケースを減らす。 県がカネを出さぬというなら、それこそ中央政府が予算付きで支援政策実施を沖縄県に求めることだ。 国立の中高一貫校を作ってもいい。そこに子供を入れるために与那国島への移住が増えたら、しめたものだ。 与那国島の過疎化が進み、スキが生じて中国につけ入られたときの代償を考えれば、安いものである。 高校の授業料を一律無償にすることはバカでもできるが、選挙で票がほしい政党は、こういうメリハリのある政策を真剣に検討されよ。【平成22年11月22日の配信コラムを転載】