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むかし、一人の旅人が町はずれの大きな木の下に、しょんぼりと腰をおろしていました。
長い旅でお金はなくなり、朝から何一つ食べていないのです。 旅人はお腹がへって、目が回りそうです。 ふと、足もとに落ちている古ぼけた火打ち箱に目がとまり、なんの気なしに中から火打石を取りだすと、力チ力チと鳴らしました。 すると不思議な事に、大きな犬が、どこからともなく飛んできて、 「ほしいものは、何ですか?」 と、聞いてきたのです。 「お金がほしい!」 旅人が答えると、犬はどこかへ飛んで行って、お金のいっぱいつまった財布をくわえてきました。 そして、 「ご用のときは、また呼んでくださいね」 と、言うと、煙のように消えてしまいました。 旅人は大喜びで、そのお金でお腹いっぱいごちそうを食べて、夜は久しぶりに宿屋にとまりました。 「ああ、今日はぐっすり眠れそうだ。・・・おや? お城か」 宿屋の部屋の窓から、はるか向こうの大きなお城をながめていると、向こうの窓からも一人の美しいお姫さまが、こちらを見ているようでした。 「きれいな人だな。あんな人と、お友だちになれたらなあ。・・・そうだ」 旅人は火打ち石を、力チ力チ鳴らしてみました。 すると昼間の犬が、窓から飛び込んできました。 「ほしいものは、何ですか?」 「実は、あのお城のお姫さまと、お友だちになりたいんだ」 旅人がわけを話すと、犬はすぐに窓から飛びだして、まもなくお姫さまを背中に乗せてもどってきました。 「こんばんわ、旅人さん。何か、旅のお話しを聞かせてくださる?」 「はっ、はい!」 お姫さまは旅人の楽しい旅のお話に、夜のふけるのも忘れるほどでした。 夜明けになると、犬はお姫さまを背中に乗せて、お城に送りとどけました。 犬のおかげで旅人は、あくる夜も、そのあくる夜も、お姫さまとお話しすることができました。 ところがある夜、王さまの家来が、犬がお姫さまを連れ出すところを見つけてしまったのです。 家来はすぐにあとをつけましたが、見失ってしまいました。 そこで家来は次の日、底に穴を開けた小さな袋にそば粉をつめて、それをお姫さまの着物のすそに、ゆわえておきました。 夜になると、お姫さまはまた犬の背なかに乗って、旅人のところへ行きました。 でも、袋からそば粉がこぼれたことには、気がつきませんでした。 あくる朝、家来たちは落ちているそば粉をたどって宿屋におしかけ、旅人を捕まえました。 お城に引き立てられた旅人は、王さまに向かって言いました。 「お姫さまを、わたしのお嫁さんにください」 王さまは、かんかんに怒って、 「無礼者! お前なんぞに、大切な姫がやれるか! この男をこの場で死刑にしろ!」 と、家来たちに命令しました。 家来たちが旅人に向かって、いっせいに鉄砲の引き金を引こうとすると、旅人は素早く火打ち箱から火打石を取り出して、力チ力チと鳴らしました。 すると、 「うおーっ、ワンワン!」 あの犬が現れて、家来たちを相手に大暴れしました。 そして、すべての家来たちをやっつけた犬は、王さまに向かって言いました。 「王さま、この旅人は素晴らしい若者です。もし、この旅人をこの国の王にしたら、国はいつまでも栄えるでしょう」 そう言うと、どこかへ消えてしまいました。 「不思議な犬だ。きっと、神さまのお使いにちがいない」 そう思った王さまは、さっそく旅人とお姫さまの結婚をお許しになり、旅人に王さまの位をゆずりました。 そして犬の言葉通り、この国はいつまでも栄えたということです。 好運は大胆に味方する。 エラスムス
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Last updated
Apr 17, 2023 06:03:12 AM
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