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きつかけを待つてゐたのかすれ違ひざまに落ちたる凌霄花 級友の喪主の挨拶ひつそりと 天気予報の雨は外れて 制服を着てをりし身と歳月を喪服につつみ再会したり 算数が数学となりし春の日にとほく飛ばしたタンポポの種 キュンと鳴く小鳥の一羽迷ひ来て忘れた頃にまたキュンと鳴く 新宿で別れゆきたり 校門を出でて振る手のかたちのままに 『眩』第六十号 2004.9 この歌を詠んだ時は、高校時代からの友人のお父様が亡くなられて彼女のことを思っていました。 この歌が印刷されて届く月、まるで凌霄花が音もなく落ちるように、今度は級友が突然逝ってしまいました。 制服が喪服に変わって、再び集まることになるとは。 自分の歌を読みながら、唖然としてしまいました。偶然といえば偶然が重なっただけなのですが、ずっと彼女のことが頭から離れません。自転車に乗ったまま、工事中のビルの青いビニールシートに よりかかり・・・蜘蛛膜下でした。 何を買おうとしていたのかな。その道を通ることも、彼女が行こうとしていたスーパーへ行くことも、当分出来そうにありません。 そういえば、いつも忙しそうに自転車を漕いでいる彼女と、たまにすれ違ったっけ。 「元気?」 「元気よ」 「近い内に連絡するから」 「うん」 そんな感じで別れたままで。 今もまだ沢山の用事を抱えて、自転車に乗っているような気がします。 いつか一緒に踊ろうねという約束は、とうとう果たせないままに終わってしまいました。 ごめんね。とっても疲れちゃったんだね。私は逃げてしまったけれど、貴方は最後まで頑張ったね。 まだ中学生の貴方の最愛のNちゃんに、いつか貴方の話を沢山してあげる。そういえば私たちが出会った日も、みんな中学生だったね。 算数が数学になった遠い春は、まるで昨日のことのようです。 *題詠マラソン2004 こころに残った歌 076:降 高澤志帆 2004年08月24日 (火) 02時14分 龍田姫けさらんぱさらんひきつれて降りみ降らずみの秋のゑんそく 052:部屋 資延英樹 2004年08月25日 (水) 23時05分 言ひ訳はあとで聞かうかこの部屋は知つてのとほり窓がないのだ 081:イラク 佐藤理江 2004年08月26日 (木) 08時22分 死者なくて日本のメディア静かなりイラク南部に着弾の穴 094:遠 村本希理子 2004年08月26日 (木) 15時25分 「遠からず待ち人来たる」 さういへば誰かを待つていたんだつたな 031:肌 岩崎一恵 2004年08月26日 (木) 18時19分 鉛筆画の少女の肌の陰影の上にうつろう晩夏のひかり 047:機械 江村彩 2004年08月27日 (金) 21時08分 てのひらの機械のなかのはずだった戦争ゲームが手からはみ出す 036:流 村上きわみ 2004年08月28日 (土) 02時22分 よく振って流しておいた ひとりへの水のにおいの挨拶でした 022:上野 久野はすみ 2004年08月28日 (土) 06時12分 上野から谷中千駄木ひょうひょうと祖父の帽子がやってきそうな 022:上野 星川郁乃 2004年08月29日 (日) 00時52分 飛ぶこともあるのだろうか踏まれない距離だけ保つ上野の鳩は 039:モザイク ひぐらしひなつ 2004年08月29日 (日) 02時50分 この雨が聞こえませんかいくたびも描きなおした青いモザイク 030:捨て台詞 氏橋奈津子 2004年08月29日 (日) 07時36分 じゃあまた、とひらいた傘の折り皺がどんな種類の捨て台詞より 082:軟 飛永京 2004年08月30日 (月) 03時05分 陽に透ける耳の軟骨もも色で胎児の頃の君かと思う 080:縫い目 翔子 2004年08月30日 (月) 16時17分 嫁ぐ娘が残していった白い犬ほつれた縫い目かがる夏の日 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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