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カテゴリ:生き方・稲盛和夫先生
世間には高い能力を備えながら、心が伴わないために道を誤る人が少なくありません。私が身を置く経営の世界にあっても、自分さえ儲かればいいという自己中心の考えから、不祥事を引き起こし、没落を遂げていく人がいます。
いずれも経営の才に富んだ人たちの行為で、なぜと首をひねりたくもなりますが、古来「才子、才に倒れる」といわれるとおり、才覚にあふれた人はついそれを過信して、あらぬ方向へと進みがちなものです。そういう人は、たとえその上を活かし一度は成功しても、才覚だけに頼ることで失敗への道を歩むことになります。 才覚が人並みはずれたものであればあるほど、それを、止しい方向に導く羅針盤が必要となります。その指針となるものが、理念や思想であり、また哲学なのです。そういった哲学が不足し、人格が未熟であれば、いくら才に恵まれていても、せっかくの高い能力を正しい方向に活かしていくことができず、道を誤ってしまいます。これは企業リーダーに限ったことでなく、私たちの人生にも共通していえることです。 この人格というものは「性格+哲学」という式で表せると、私は考えています。人間が生まれながらにもっている性格と、その後の人生を歩む過程で学び身につけていく哲学の両方から、人格というものは成り立っている。つまり、性格という先天性のものに哲学という後天性のものをつけ加えていくことにより、私たちの人格は陶冶されていくわけです。言い換えれば、哲学という根っこをしっかりと張らなければ、人格という木の幹を太く、まっすぐに成長させることはできないのです。 ◎ 人間として正しいか では、どのような哲学が必要なのかといえば、それは「人間として正しいかどうか」ということ。親から子へと語り継がれてきたようなシンプルでプリミティブな教え、人類が古来培ってきた倫理、道徳ということになるでしょう。 すなわち、嘘をついてはいけない、人に迷惑をかけてはいけない、正直であれ、欲張ってはならない、自分のことばかりを考えてはならないなど、だれもが子どものころ、親や先生から教わったにもかかわらず、大人になるにつれて忘れてしまう、単純な規範を生きる指針に据え、人生における守るべき判断基準とすべきです。 一般に広く浸透しているモラルや道徳に反することをして、うまくいくことなど一つもあるはずがない。これはとてもシンプルな基準ですが、それゆえ筋の通った原理であり、それに沿って人生を生きていくことで迷いなく正しい道を歩むことができるのです。 現代の日本で、人間のあり方を示す倫理や道徳などというと、いかにも時代遅れのさびついた考えだという印象を抱く人が多いかもしれません。戦後の日本は、戦前に道徳が思想教育として誤って使われたという反省と反動から、これらをほぼタブー視してきました。しかし本来それは、人類が育んだ知恵の結晶であり、日常を律するたしかな基軸であるはずです。 近代の日本人は、かつて生活の中から編み出された数々の叡智を古くさいという理由で排除し、便利さを追うあまり、なくてはならぬ多くのものを失ってきましたが、倫理や道徳といったことも、その一つなのでしょう。 いまこそ、人間としての根本の原理原則に立ち返り、それに沿って日々をたしかに生きることが求められているのではないでしょうか。私たち一人ひとりが、そう心がけることで、それぞれの人生がより充実したものになるばかりか、社会もより豊かで潤いのあるものになっていくことを、私は信じています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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