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2016.02.07
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  『倫敦塔・幻影の盾』夏目漱石(岩波文庫)

 ……えー、聞くところによりますと、「漱石イヤー」だということで。
 しかも、今年来年と2年続きということで。
 なるほど、夏目漱石は1916年(大正5年)に亡くなっていますので、今年は漱石没後100周年の何とも区切りのよい「漱石イヤー」で、一方、漱石誕生年は1867年(慶応3年)でありますから、来年は漱石生誕150周年とこれまたいかにもめでたい巡り合わせ、あわせて2年続きのおめでたやおめでたやの「漱石イヤー」でござりまする。

 ……そういえば、こんな感じの有名人をつい最近にも聞いた覚えがあるぞとあれこれ思い出したら、いらっしゃいました。しかも、この方も漱石とほぼ同時代の方です。
 20世紀最大の交響曲作曲家、グスタフ・マーラー(1860~1911)であります。

 漱石が49歳で亡くなり、マーラーは51歳で亡くなっていますので、どちらも2年続けての記念の年となるわけですね。(なるほど、こういう死に方は何となくいいような……と思ってはっと気がつき、バカバカしい。2年連続の記念の年はその方の死に方のせいじゃなくて、その方の生きている時の圧倒的な天才のせいでありました。)

 というわけで、せっかくですから今年来年はせいぜい漱石作品並びに漱石関係書籍に馴染もうと、わたくし年の初めから思っておりました。
 で、冒頭の岩波文庫の読書報告に至るわけですが、うーん、この本はわりに厳しかったですね。
 
 実は私がちょうど大学生だった頃に、岩波書店が新書版の漱石全集を刊行なさいまして(何度目かの刊行だったと思います)ちょうど前後して鴎外の選集も刊行されまして、どちらも全部買ったんですね。今も部屋にあります。

 それ以前にも文庫本で漱石作品は結構読んでいたのですが(漱石の小説は、角川文庫が資料が充実していてとてもよかったです。今でも角川文庫の漱石作品は資料充実のままなんでしょうか)、この全集で漱石の主だった小説は全部読みました。

 今回報告の作品集も(これは明治39年に『漾虚集』というタイトルで一冊にまとめられたものですね)、その時すべて読んでいるのですが、厳しかったのは、やはり前回読書の時と同じ作品でした。

 本書には以下の7作が収録されています。

  「倫敦塔」「カーライル博物館」「幻影の盾」
  「琴のそら音」「一夜」「薤露行」「趣味の遺伝」


 何が厳しいかと言いますと、例えば各作品の文体はこんな感じなんですね。(典型2例だけ書きだしてみます)

 カーライルは何のためにこの天に近き一室の経営に苦心したか。彼は彼の文章の示す如く電光的の人であった。彼の癇癖は彼の身辺を囲繞して無遠慮に起る音響を無心に聞き流して著作に耽るの余裕を与えなかったと見える。洋琴の声、犬の声、鶏の声、鸚鵡の声、一切の声は悉く彼の鋭敏なる神経を刺激して懊悩やむ能わざらしめたる極遂に彼をして天に最も近く人に尤も遠ざかれる住居をこの四階の天井裏に求めしめたのである。(「カーライル博物館」)

 「珍らしいね、久しく来なかったじゃないか」と津田君が出過ぎた洋燈の穂を細めながら尋ねた。
 津田君がこういった時、余ははち切れて膝頭の出そうなズボンの上で、相馬焼の茶碗の糸底を三本指でぐるぐる廻しながら考えた。なるほど珍らしいに相違ない、この正月に顔を合せたぎり、花盛りの今日まで津田君の下宿を訪問した事はない。
 「来よう来ようと思いながら、つい忙がしいものだから――」(「琴のそら音」)

 どうですか。七つの短編小説の文体は、この上下の作品の文体をそれぞれの極として、その間のどこかに広く点在しています。

 この多様性は、漱石の縦横無尽の文章力を示すものではありましょうが、「カーライル博物館」寄りの文体で書かれた「倫敦塔」「幻影の盾」「一夜」「薤露行」は、読むのに結構きつかったです。(多分「幻影の盾」が一番読みやすかったとは思いますが、基本的にどの作も私の文章読解力ではとても難しかったです。書かれてあることのイメージがどうもうまく浮かんでこないんですね、よく読めないから。)

 残りの「琴のそら音」と「趣味の遺伝」の2作品は、打って変わって、作品の展開が一番小説的であるせいもあって、そしてこれまた漱石の融通無碍な言文一致体のおかげで(「趣味の遺伝」はそれでもまだ擬古文的要素があります)、とても面白く読めました。これも前回の感想と同じ。

 考えてみれば漱石は、『坊っちゃん』とさほど間を置かない時期に『草枕』を書いた作家でありますがら、これくらいの文体のヴァラエティはごく自然に描き分けることができたのだと思いますが、この確かな文章力の土台があったからこそ、特に晩年の、一作一作鬼気迫るような名作群は誕生したのでありましょう。

 ところで最後に、上記に挙げた「琴のそら音」にも「趣味の遺伝」にもオカルティックなエピソードが出てくるのですが(それも両作ともとても大事な要素として)、思い出して見れば、『吾輩は猫である』にも『三四郎』にも『行人』にも『こころ』にも、そんなエピソードが出ていました。
 漱石って、オカルト好きだったんですかね。
 そういえばそんな評論をどこかで読んだような気もするんですが……。
 この漱石イヤーのあいだに、また、探してみたいと思います。


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Last updated  2016.02.07 15:56:23
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