安保法が強行採決で成立したため、今後の自衛隊員は命の危険にさらされるリスクがかなり増大した。そのため、民間企業でさえ3Kの仕事が人手不足なのだから、今後は自衛隊への応募は極端に減少することが見込まれる。そうなると、自衛隊の人手不足は徴兵制の導入で補えるのではないか、という議論になるのが当然のなりゆきであるが、国民に一律に義務を課す「徴兵制」よりも、もっと巧妙な、自動的に若者が自衛隊に不承不承入隊せざるを得ない社会の仕組みが、実は存在する。9月30日の東京新聞は、その辺の事情を次のように解説している;
安全保障関連法の国会審議では、将来的に徴兵制が導入されかねないとの懸念も示された。安保法の成立によって、自衛隊の海外任務が拡大し、隊員の危険が高まり、志願者が減っていくのではないか、との見方からだ。
安倍晋三首相はこうした声に「不安をあおるデマ」と反論している。徴兵制について、政府は憲法18条が禁じる「意に反する苦役」に当たり違憲だと解釈。政策的にも、発達した科学技術を用いた装備を使いこなすには十分な教育訓練が必要で、徴兵制はあり得ないと主張している。
だが、安倍政権は徴兵制と同じように過去の歴代政権が「憲法上許されず、解釈変更はあり得ない」と説明してきた集団的自衛権の行使を容認した。徴兵制に対する国民の不信感や不安感は、政権自らがつくったといっていい。
もう一つ、徴兵制をめぐり指摘されているのは経済格差や貧困との関係だ。
米国ではベトナム戦争後に徴兵制は廃止された。だが、イラク戦争以降、軍の担当者が貧困家庭の高校生らの情報を入手、医療保険への加入や除隊後の学資支援などを示して入隊を勧誘したと報じられている。
米国に将来の日本を重ねる見方は少なくない。日本では所得格差が拡大し、親から子への貧困の連鎖が社会問題となっている。困窮した若者が選択肢がないため経済支援を受ける条件で入隊し、安保法で拡大した武器使用を伴う海外での危険な任務に就かざるを得ない。あくまで強制ではないので、本来の「徴兵」とは意味が異なるが、こうした構図を「経済的徴兵」と指摘する声もある。
国会審議では2年前、無職の若者への就職対策を唱える経済団体幹部に対し、防衛省が任期付きの実習生制度導入の「イメージ」を伝えていたことも明らかにされた。
防衛省には現在、自衛隊入隊を条件に、大学生らに学資金を貸し出す制度がある。民主党の細野豪志政調会長は制度拡充の可能性に触れて、隊員募集について「経済的なアドバンテージ(利点)を与えるやり方に懸念を持つ」と警鐘を鳴らしている。
(我那覇圭)
2015年9月30日 東京新聞朝刊 12版 1ページ「これからどうなる安保法-貧困 やむなく志願も」から引用
自衛隊は国内の災害救助でさえ十分危険な業務であるから、何も人殺しの道具を持って海外まで出かける必要はありません。わが国は憲法の精神を尊重し、解釈を変更するなどの姑息な真似をして無理に国民を危険な地域に派遣する必要はありません。今回成立した安保法の即時廃止を求めます。