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やっぱり読書  おいのこぶみ

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2005年07月12日
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カテゴリ:名作の散歩道
バッハ「ト短調のフーガ」の追いかけるようなピアノ曲が創作意欲をかきたてたという。

「美しい村」…序曲 美しい村 夏 暗い道
「風立ちぬ」…序曲 春 風立ちぬ 冬 死のかげの谷

目次をみているとそんな楽の音が聞こえそうである。


「美しい村」

精神的危機(多分、苦しい恋愛)を持てあまして、季節にはまだ早い軽井沢に来て鬱々としている小説家らしい主人公。ラブレターもどきの手紙をうじゃらうじゃら書いて暇をつぶしている。ふざけて書いたが、この序曲手紙部分に若い私はぐっーときたのよね。何故ゆえにか。

文章をいろどっている、高原の乾いた空気、野ばらや藤の花のにほひ、空き家の別荘やバンガロオ、落葉松林へ彷徨い、ヴェランダから見る樅の木の群れ、遠見の中央アルプスの山々。今じゃそれなりに皆、経験して珍しくもないのだが、当時は高嶺の花、憧れが多分に入っているね…。

軽井沢の恋というと、私は古くは野上弥生子の「迷路」、近くは小池真理子の「恋」があるのを思出だすね。

そう、傷心の主人公もほっそりと背の高い、きらきらと光っている特徴のある目ざしの少女にめぐり会ったのだった。ひそやかに恋に落ちていく。恋の行方ははっきりせずに一旦物語を閉じる。


「風立ちぬ」

「美しい村」終章でのいったいどうなるのかしら?という不安な気持ちとあっけなかった後の物語。

「序曲」で別れを予感させときながら「春」ではその少女(節子)と婚約して登場。「お前」なんて呼んじゃって…、えっ!だけどね。しかも、その頃は死病といわれた胸の病に侵されていて。というより「美しい村」で逢った時からだったのかも知れないけど。やっぱりこのパターンは純愛ものにつきものなのね。

八ヶ岳の山麓のサナトリウムに行くことになり、主人公も蜜月旅行ならぬ付き添いでいくことに。風変わりな愛の生活がはじまった。小説にして私小説、堀辰雄の実人生でもあった。

サナトリウムで看病しながら小説を書きはじめ、そのテーマがこの「節子」のこと。しかも「私のことならどうでもお好きなようにお書きなさいな」と軽くあしらわれる。(節子の気持ちは軽くないのだけれど、恋人に仕事ー小説書きをさせたいけなげさなのだ)

主人公の夢想する「小説」の筋は作者の手から物語が離れていくような展開になって来る。作家魂と申そうかよくあることだ。

『病める女主人公の物悲しい死』

『身の終わりを予覚しながら、その衰えかかっている力を尽くして、つとめて快活に、つとめて気高く生きようとしていた娘―恋人の腕に抱かれながら、ただその残される者の悲しみを悲しみながら、自分はさも幸福そうに死んでいった娘、...』小説なのか、物語の中の物語なのか。

けれど、主人公は夢想を恥、恐怖に襲われ悩む。「はたしてこんな生活をさせて幸せなんだろうか?おれの気まぐれではないのか」節子の病気は重くなっていく。

節子は『私達のいまの生活、ずっとあとになって思ひだしたらどんなに美しいだらうって…』と微笑するけれど、主人公私は出会った頃に感じたような『幸福に似た、しかしもっともっと胸のしめつけられるような見知らない感動で自分が一ぱいになっているのを感じ』るのだ。

溶けあう心、一瞬の幸せの色濃い思い出。自分は生きていくのに、たくさん幸せをくれた相手は死んでいく。時を閉じ込め、風の中に気配を感じる。

やっぱり文学の香気がいっぱいだった。

『風立ちぬ いざ生きめやも』





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最終更新日  2005年07月12日 15時00分55秒
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