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やっぱり読書  おいのこぶみ

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2018年10月21日
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​​あらすじ
時は明治時代の終わりか、大正の初めと思われる。
小学5年生の仙一は学校の校門際に植えてある薔薇を盗んだ。
貧弱な薔薇木にたった一輪咲いていたのを。
学校中大騒ぎになった。

何故、盗んだのか。
病弱で寝ている5歳の妹を慰めたかったから。
仙一の家は極貧。朝ごはんも食べずに学校へ行かねばならない。
栄養失調の妹二人は家でボロキレにくるまって寝ているしかない。
電灯もろうそくもつけない家は真っ暗だ。
そんな中での洒落た赤い薔薇の花は一時の慰め。

働きものの母親が死んで、気落ちの父親、喜八も病気である。
いや、怠け者の極道との世間の噂は一応あたっているらしい。
左手の指が生まれつき4本しかない欠陥もあり、心が病んでいるにちがいない。

自作農だった田地が今は小作になってしまったのもひねくれから。
いよいよ喜八は働きたくなく、親子4人は飢餓にさらされている。
近所や親戚も助けてくれることはあるが、所詮足りない。
喜八もふて寝の毎日だ。

そんな喜八が息子仙一の盗みを知ると病気を忘れて
烈火のごとく怒り、仙一を家からたたき出してしまう。

はだしで飛び出して、自分の月影を踏みつつ田舎道を彷徨う小学生仙一。
普段はガキ大将でもあるのに、心細さはがつのる。

手下の三年生を誘うと隣村の芝居小屋に潜り込もうとしたり、
それがかなわないと、嫌がる手下を真っ暗な自分の母親のお墓に連れていったりする。

行き場がなく、仕方なく自分の家に帰ってくる。

「・・・・・土間の戸をそおっと開けようとすると、家の中がなんとなく明るんで見えた。おや、と思いながら這入ってみると、蝋燭の火が一本ほの揺れて、その光のそばで、父親の喜八が後光に包まれたような格好をして、草履を作っていた。仙一の学校草履をもう二足も作っていた。

仙一が帰って来たのを見ると、喜八は重い口で「芋食うて寝よ」と言った。

仙一ははだしで座敷を上がり、芋を二つ三つ食ってから、利エと由美江(妹たち)の間へ割り込んで寝た。父親の影法師が煤けた壁の上で大きく揺れるのを見つめながら・・・・・」

*****

貧しい家庭に育つ少年と父親を冷静な描写、あたたかい目線で捉えられ、悲惨ながら感動を与える短編。「貧乏をしても盗むな」というきれいごとの説教ではない、人間の心のひだを探る文学の作品である。

*****

上林暁の処女作短編。

昭和の作家探訪とて昔の新聞の切り抜きから、読んでいこうと思っていてはじめの一歩、No1が上林暁。
講談社文芸文庫の短編集『聖ヨハネ病院にて 大懺悔』の一番目の作品。

上林暁はその後、私小説作家になるのだが、この一作目は純然たる創作。
察するに教員だった父親の話からヒントをもらったのでは。
川端康成が作家の「目の誠実」と褒め称えたそうである。











​​





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最終更新日  2018年10月21日 12時36分22秒
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■コメント

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Re:『薔薇盗人』上林暁(10/21)   Todo23 さん
上林暁『聖ヨハネ病院にて』読了しました。読んだのは新潮文庫の復刻版です。

やっぱり私は私小説は駄目ですね。
正確にはちょっと違うかな。南木佳士は好きな作家だし、車谷長吉も感動した。
私小説そのものより文学至上主義的な考え方がダメなようです。

ただ、この『薔薇盗人』は良かったです。
(2018年11月06日 17時06分52秒)

Re[1]:『薔薇盗人』上林暁(10/21)   ばあチャル さん
Todo23さんへ

きっかけとして選んでくださり、読んでくださり、こういうことは嬉しいです。
そうですか、新潮文庫に復刻版があったのですね。このごろは昭和の古い作家さんも復活しますよね、わたしにはありがたいです(笑)


>やっぱり私は私小説は駄目ですね。

わたしも若いころは全くダメでした。だから外国文学、いわゆる翻訳ものばかり読んでいました。

でもその頃は文学志向の人は私小説的な文学好みで、話が合いませんでしたよ。「堀辰雄が・・・」って話のようなのばかりでね。
そのわたしが昭和恋しさに宗旨替えかな(笑)


でも、わたしも苦手なファンタジーと女性作家の時代物、取り組むというと大げさですが、読む気、おお有りですよ。



(2018年11月07日 08時17分19秒)

Re[2]:『薔薇盗人』上林暁(10/21)   ばあチャル さん
Todo23さんへ

わたくしが

>そうですか、新潮文庫に復刻版があったのですね。このごろは昭和の古い作家さんも復活しますよね、わたしにはありがたいです(笑)

こんなこと書いたのは滑稽でした。Todoさんの感想をレスポンスの後で拝見しましたので(汗

そうですよね上林暁さんはほんとに古い、古い作家さん、新潮文庫の復刻版でも時が経ってしまってるものになるのですね。

昭和時代
文壇が全盛期で作家さんたちが、和気あいあいかどうか知りませんが、交流があってその狭いような世界で文学に燃えていたのでしょうかね。

そういえば、岡野宏文・豊崎由美『百年の誤読』で私小説的文学を痛快に蹴っ飛ばしていましたのが、面白かったです!!


(2018年11月07日 08時42分37秒)

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