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書評日記  パペッティア通信

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May 20, 2005
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この作品の主人公は、クラシック音楽なのではないのか?
この前々から感じていた疑惑は、評者の中では今、確実なものとなっています。

月刊コミック誌『キス』で快進撃連載中。
その待望の新刊。「のだめ」は女性ピアニスト・野田恵の愛称。
「カンタービレ」とは、「歌うように」というイタリア語です。

2名の主人公、「のだめ」と指揮者希望の千秋真一。
この2名をメインに、多彩な脇役をまじえてつむがれる、恋愛と音楽の物語。
その処理も、コミカルかつシリアスな小技の連続で、読者に息をつかせません。
クラシック音楽へいざなう、すばらしいコミックとして、
『朝日新聞』『ダ・ヴィンチ』など、各誌で好意的にとりあげられてきました。

でも、みんな、間違っていませんか?

ヴァイオリンを弾けば、それはクラシック音楽になるのでしょうか?
断じて、違う。

クラシックという芸術運動こそが、人をとらえるのです。
クラシックが、その人の内部に侵入し、意識そのものを浸潤し作りかえてゆく。
クラシックにとらえられないかぎり、その音楽はクラシックになりはしない。

たゆまぬ練習で、人はクラシックを完全な統制下におこうとします。
その成果をみせる晴れやかな場、演奏会、録音セッション。
演奏者の身体を通して、聴衆に散種されてゆく、クラシック。
あたかも遺伝子やヴィールスが、人をヤドリギとして寄生し繁茂するがごとく、
クラシック芸術の運動も、この自己増殖をやめない。
演奏者を媒介にして。

この作品の主体は、演奏者ではない。
クラシックなのです。

人はいかにクラシックにすまわれ、下僕となるのか。
クラシックは、いかなる人にパラサイトして、ついの棲み家とするのか。

高慢、自信過剰、「一緒にいて辛かった」
…千秋の形容詞を思いおこしてほしい。
この悲喜劇こそ、この作品のモチーフではないのか。

千秋真一は王子ですらない。
奴隷なのです。

クラシックは、譜面通り弾く必要があります。
超絶的な技巧は、至高なる作曲者に捧げられています。
千秋真一は、感性で、理性で、クラシック作品を完全に征服しようとします。
至高な作曲者の意思を、この世界に忠実に再現しようとする奴隷は、
激烈な征服欲をやどらせて、音楽に向きあっています。
リビドーにつき動かされる千秋。
そもそも彼をとりまく女性は、その先にしか棲み家をあたえられていない。
これが恋愛話であろうはずがない。

「オリジナル(作曲者)/模倣(演奏者)」の体系、クラシック音楽。
ここでは、演奏によって初めてイデアがその一端を聴衆のまえにあらわします。
演奏者は、その意味では疎外された存在です。
イデアにたどりつくことなど、ありえないのだから。

そう。
完璧にみえる千秋真一は、
つねにクラシックを取り逃がし続ける。

ここに、「のだめ」と千秋が、邂逅する瞬間がある。
互いに「取り逃がした何か」を知るものとしてもとめあう。

12巻は、まさにこのシリーズのターニング・ポイントになっています。
プラトン主義から、反プラトン主義への急激な転回へ。
「オリジナルと模倣」の価値体系の崩壊へ。

かの大バッハは、実は教会旋律なのか、短調なのか、長調なのか、
本人も分からなくなっている部分も多い、とのだめに語るリュカの祖父。
大「バッハ」は、実は「のだめ」にすぎない。
フーガの構造は、完全に理解することなどできない。

連載開始してから3年。
クラシックという芸術の自己運動がみせるほころび。
「全体は虚偽である」
ようやく、この地平にたどりついたのです。

3つの道が、このシリーズには残されています。

クラシックの亀裂に想像的修復を施して、その場にとどまりつづけるのか。
クラシックは、亀裂の前に自己崩壊するのか。
それともクラシック音楽は、さらなる弁証法的展開をとげるのか。

まさに目が離せません。
読んでいない人は、ぜひ講読して欲しいです。

しかし…
千秋のパリ指揮者デビュー曲。
ラベルと武満徹はともかくとして、シベリウスとは…
ほとんど主人公は無敵のインフレ状態になっていませんか?
これだと残りはぶるっくな~、ま~ら~位しか残ってないじゃない…

評価 ★★★★
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Last updated  Oct 25, 2005 07:51:05 PM
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