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書評日記  パペッティア通信

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Jan 24, 2006
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カテゴリ:経済


更新が滞りがちで、申し訳ありません。

本書によれば、経済学的思考とは、社会の様々な現象について、人々のインセンティブ構造とその意志決定メカニズムから考え直すことであるという。世間に潜む身近な疑問や社会格差を、インセンティブと因果関係の精査を通して考えてみよう!。そう呼びかけるこの本は、数字や常識などに騙されない、そんな思考を身につけるための必読本となっています。

参考のためサワリをご紹介しておきましょう。

● 女性はなぜ背の高い男を好むのか?
  →高身長には、運動部加入によって組織運営する能力が身に付くプレミアム
   があり、親が子供に残せる最も重要なものも「身長」らしい

● イイ男は結婚しているのか?
  →イイ男には経済力要素もあるが、結婚したからイイ男になった、のが正解

● フリーエージェント制やドラフト制弱体化は、戦力バランスを崩すのか?
  →そもそも一人勝ちは、球団参入・売買規制の存在と、球団が「利潤最大化」
   を追求せず、スポーツのスリルを愉しまないファンによって生じるという。
   さまざまな平等措置が必要になるのは、これらが満たされないためである。

● 大学教員を働かせるには?
  →終身雇用は低給料のメリットがあるが、研究インセンティブが生じない。
   全部任期制だと、新任教員にポストを取られる危険性から能力が劣るもの
   が選ばれ易い。終身雇用と任期制をミックスさせ、適切な評価制度が必要

● リスクを嫌うはずのエンジニアはなぜ「職務発明報酬」を支持するのか?
  →一審で200億円の算出された青色発光ダイオードの「職務発明報酬」。本
   来革新的な発明はリスクが極めて高い。本来企業の方が導入したい成果
   主義的賃金制度を技術者が求めるのは、リスクが不透明で上司が満足な
   指示を出せない中で結果を出している「個人の成果」意識反映、もしく
   は危険愛好的な自信過剰の反映であるらしい。

● 日本的雇用慣行は崩壊したのか?
  →不明。終身雇用労働者は全体の2~3割にすぎないし、「団塊の世代」の
   人口の巨大さという中期的要因も
無視できない。

● 年功賃金はネズミ講か?

  →間違い。労働者の生産性が考慮されていない。企業の未積立年金・退職
   金債務に顕れたようにネズミ講に近いが、合理的システムとしても存在可能

● なぜ年功賃金制度は存在するのか?人的資本か?インセンティブ・供託金
   機能か?適職探しか?生計費か?

  →どれも完全には説明できない。技能が陳腐化していないことが必要だし、
   解雇しない中でインセンティブもおかしい。職種が少ない企業でも成立して
   いるし、生計費モデルはそもそも設計して給料と対応させることが難しい。

● なぜワークシェアリングが定着せず、人は失業を選ぶのか?
  →賃金カットをすると、優秀な社員のみ賃金維持を求めて流出しやすい上、
   優秀さを自負する労働者は解雇の方を支持しやすい。また損失局面で
   は、人は俄然危険愛好的になり現状維持を選びやすい――「損失回避」
   とよぶ――などが絡み、3割カットになる位なら、人は人員整理をもとめ
   てしまうらしい。


自然災害などの対策についても、災害保険によってリスクを個人的にカバーさせるだけではなく、危険な地域に居住しながら未対策の家屋に、高額な税金をかける仕組がよいという。サッカー界における人種差別は、実証的分析の結果、ファンではなくオーナーの方にあるらしい。また若者の年金未納付は、「団塊の世代」の年金給付削減を政治的理由から行えない状況に対する反乱であるという。プロ野球の名監督は、誰なのか。また、失業はどうして犯罪や自殺と結びついてしまうのか。人間は死亡時期さえも経済的インセンティブで変えてしまう(スレムロッド教授)などの、インセンティブ理論の浩瀚な紹介は、知的好奇心をもつものにとって、たいへん刺激的なものになっています。

とくに、最終章、所得格差と再分配を論じた部分は、著者の専門分野だけに、入門書としては白眉の部分でしょう。『下流社会』など、ジャーナリスティックな浅薄で煽り立てるだけのアプローチに対する、厳しい批判になっています。現在の所得格差拡大は、急激な高齢化と世帯構造変化(核家族化)によるもの。高所得層における共稼ぎ(女性のライフスタイル変化)なども影響を与えているものの、そこまで顕著な所得格差の拡大はみられないという。所得格差拡大は、80年代であって、90年代ではない。むしろ名目賃金の低下などが、中年以上を直撃して、実態以上の格差拡大感をもたらしているという。若年層の所得格差拡大、高年齢層での格差縮小という傾向が、1990年代以降見られること。IT革命は、学歴間賃金格差の拡大をもたらすものの、単なるパソコン習熟者増加のような対策を打ち出すのではなく、分析・解析能力の高い高学歴者の供給で対応すべきこと。どんどん所得税徴収率が減少している、世界でもっとも「小さい政府」の一つ日本。そんな社会で「小さな政府」を目指すことが唱えられ、人々が「失業」に怯えているのは、ある種の喜劇ではないのか。むしろ、所得分配機能を高め、セーフティネットを重視するべきではないのか。「転職」可能性に支えられた生涯所得概念(イタリアはジニ係数が低いにも関わらず、生涯所得格差で見ると、アメリカと変わらない)の重要性とともに、この著作から教えられることは非常に多い。

ただ、どうだろう。人々のインセンティブ構造を正確に測定して、その構造をかえてゆくことによって、人々の行動そのものを変化させていく…この発想は、どんなに有効な社会設計のアプローチであるとはいえ、なかなかムカつかせるものがあるのではないだろうか。我々は、知らず知らずの内に、見も知らぬ制度設計者がもくろんだ、身体内のインセンティブ構造への働きかけを通して、行動が制御されてしまっているのだ。マクドナルドが、顧客の回転数をあげるためわざと固いイスを使い、ゴルフの賞金制度が、競争のインセンティブを持続させるため決勝トーナメントで苛酷な賞金格差、バラツキがある予選では賞金格差を設けないと使い分けるように。インセンティブ操作の対象にすぎない、われわれ。自由なはずの我々は、すでにインセンティブ構造を通して、自由をとっくに失ってしまっているのかもしれません。軽妙な面白さを醸し出す反面、なにやらウソ寒い冷たさを感じてしまったのは、評者の深読みのしすぎではないはずだ。

社会の統治技術という側面をもつ、経済学。
それは有用であるがゆえの宿命なのでしょう。
考えさせられる点が多い、お薦めの一冊、といえるかもしれません。
ぜひご一読ください。

評価 ★★★
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Last updated  Mar 1, 2006 10:41:11 PM
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