浅田次郎「憑神」
浅田次郎「憑神」読了。時は幕末。主人公・別所彦四郎は江戸御徒町、武家の次男坊。剣をとれば直心影流の免許皆伝、学業も優秀…だがいかんせん嫡男ではない。江戸時代、跡取り以外は厄介者の冷や飯食い。唯一の出世は良い養子縁組。彦四郎も一度は上級武士の婿養子に納まり、道が開けたかに見えた。ところが息子が生まれたとたん「後継ぎが生まれたら婿など不要」と策略をめぐらされ追い出されてしまう。妻子と引き離され、実家にも居づらい。おもしろくない彦四郎は、夜中に家を抜け出し、屋台で酒を飲んで酔った帰り道、足がもつれて川の土手を転がり落ちる。そこで見つけたのはくちかけた祠。これも何かのご縁と手を合わせて「なにとぞ出世をよろしく」と頼んでみたら「あいわかった。任せておけ」と言わんばかりに、時ならぬ鐘がゴーン…それから数日後、彦四郎の前に神様が姿を現す。福々しいエビス様のような神様に、彦四郎は思い切って聞いてみるのでした。「ありがたや、して拙者をどこまで出世させるおつもりじゃ?」するとエビス顔をした神様が答えます。「何か誤解しておられる…私は現われて喜ばれるような者ではありません。神は神でも疫病神です」それをきっかけに二転三転する彦四郎の運命。前半はゲラゲラ笑って最後はぐっと来る…これぞ武士の誇り、を描いた、浅田次郎面目躍如の時代小説です。