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カテゴリ:読書案内
【百田尚樹/夢を売る男】
◆金さえ出せば、あなたも立派な作家の仲間入り!? プロの作家、つまり読者を喜ばせるテクニックを持つ物書きは、意外と少ないかもしれない。 もともと小説や演劇などは、抑圧された自己の解放とか思想的な表現手段みたいな傾向が強いので、誰かを楽しませるというよりは自己満足の域を出ないことが多々ある。 主義主張が明確なのは結構なことだが、一部の評論家とかインテリな方々を別にしたら、大多数の人々が小説を娯楽として読んでいるはずだ。 つまり、カタルシスを感じることで本を読むことの楽しさを実感するわけだ。 こういう読者サイドの心理をちゃんとわきまえて、おもしろい話を披露してくれるのが、百田尚樹である。 私の周囲の友人、知人らが「今、来てるよね? 百田尚樹」と、それぞれに絶賛するので私も読まないではいられなかった。 百田尚樹が小説家として名前が売られるようになる前から知っている友人が教えてくれたのだが、なんともともとこの作家は、さるラジオ番組のハガキ職人(?)だったようだ。 せっせとハガキにおもしろいことを書いては投稿し、採用されることが病みつきになり、結果として「こいつはおもしろい」というので放送作家としてデビューしたという経歴を持つらしいのだ。(友人Sさんのうんちくより) そんなわけで今日の百田尚樹が存在するのだが、代表作に『永遠の0』や『海賊とよばれた男』などがあり、後者は本屋大賞を受賞している。(ウィキペディア参照) さて、『夢を売る男』の話はこうだ。 世の中には五万と作家を夢見る人々がいる。 ある若者は、スティーブ・ジョブズにあこがれてビッグな男になりたいと思っている。フリーターをやっているが、いずれは自由気ままにアメリカを旅して自分さがしをしてみようと思っていた。 そんな中、本物の自由人である自分のことを理解してくれた(?)丸栄社の編集者・牛河原から「小説を書いてみないか?」と勧められる。 ジョブズのようになるための努力もせず(それは努力というものに自由を奪われるので、あえて無駄な努力はしないという自分なりの理由がある)、かといって具体的な目標があるわけでもないのに、渡米して自分さがしをしようとする若者。 あえてフリーな立場でいるのは、人生の大きなチャンスの時に身動き取れない状態ではマズイという信念のため。 そんな若者を、牛河原はおだて、持ち上げ、その気にさせ、出版契約にこぎつける。 また、ある団塊世代の男は、丸の内の一流企業で働いていたという経歴の持ち主で、これまでの自分史を出版したいと、契約する。 さらにある主婦は、子どもに英語の早期教育を受けさせ、都内の難関私立小学校を受験させようとしていた。 そして、これまでのプロセスをつらつらと綴っていた。タイトルは『賢いママ、おバカなママ』である。小学校合格と同時に出版するのを目標にし、丸栄社の教育賞に応募した。 このような、世間にありがちな、金と名声の欲望にとり憑かれた作家志望者と、牛河原はカリスマ的な話術で出版契約を結ぶ。 それは、ジョイント・プレス方式と言い、出版社と契約者が折半して(?)本を出すというやり方だった。 この小説は、見事に作家志望者の現実をあらわにしてくれた。 なるほど、と肯かずにはいられない赤裸々なものを感じた。 決してノンフィクションではないのに、まるで見て来たように記述されている文章の端々に、真実を見たような気がした。 ライターを目指している方々、騙されたと思って読んでいただきたい。 一攫千金をねらっているなら、宝くじを買った方がよっぽど可能性が高いことが分かる。 小説を書いて、村上春樹みたいになろうと思ったら、とんだ思い上がりもいいところだとダメだしされる。 自分の活字が本になるだけで良いのなら、町の印刷屋さんに行くか、出版社を訪ねて自費出版するのが一番早い!! お金さえあれば、本だって出すことが出来るのだから、地道に働いてお金を貯めて、それから出版社の門を叩くのが良いでしょう(?) あれ? 目的は本を出すことだったのか、それともお金持ちになることだったのか? おもしろおかしく人間の醜い欲望を突きつけられるから、実はシリアスな内容なのに、ラストはほんわかしてる。 嗚呼、やっぱり百田尚樹はプロだな! これは正真正銘、本物の小説です。 『夢を売る男』百田尚樹・著 ☆次回(読書案内No.96)は村上龍の「インザ・ミソスープ」を予定しています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.10.19 15:44:32
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